日本近海に広域分布する海藻類の多種系アプローチによる比較系統地理学的解析をおこない,分布変遷史,個体群の遺伝的多様性の理解だけでなく,異なる環境への分布拡大に関与した環境適応分子進化の解明や、未来の分布域シミュレーションにも挑戦している。 当該年度に関しては,①褐藻ヒジキの論文作成,②褐藻ウミトラノオのDIYABC解析のやり直しと論文作成,③紅藻マクサのRADseq解析,④褐藻ヒジキの環境適応分子進化に関する解析を進めた。 ①褐藻ヒジキの論文作成では,査読付き和文雑誌に投稿し,受理され,2017年11月17日に発表することが出来た。 ②褐藻ウミトラノオのDIYABC解析のやり直しと論文作成では,RADseqによるSNPsデータの検出方法を改良し,STRUCTURE解析で認識できた大きなまとまりをもとに,集団のデモグラフィックな歴史をより直接的に推定した。各種POP1,POP2,POP3の3グループの集団デモグラフィーをシンプルな9シナリオをもとに,コアレセントシミュレーションから実際の観察データを説明するのに最も適したシナリオを抽出した。また,その最適シナリオの有効集団サイズおよび分岐年代の比を推定した。結果をまとめ,査読付き英文雑誌に投稿中で,改訂中である。 ③紅藻マクサのRADseq解析では,日本各地12カ所96サンプルから解析をすすめ,褐藻ヒジキおよび褐藻ウミトラノオと類似の結果を得ることが出来た。 ④褐藻ヒジキの環境適応分子進化に関する解析では,世界で初めて単離した褐藻ヒジキの単層培養株を,Imaging-PAMとDOメータを用いて水温に関する生育特性を調査した。函館のヒジキが高温に弱いこと,沖縄のヒジキは低温に強いこと,これらの特性が遺伝的に固定されていることなどを,突き止めた。
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