研究課題/領域番号 |
26440210
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
上井 進也 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (00437500)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | アカモク / 集団分化 / マイクロサテライト / 季節性 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、核ゲノム上のマイクロサテライトマーカー7領域を用いて佐渡沿岸のアカモク集団に関して遺伝的分化の解析を行なった。マイクロサテライトマーカーについては、協力者から得ているRNAseqの情報をもとに開発したプライマーを用いた。佐渡沿岸のアカモク集団については、すでにミトコンドリアマーカーにおいて、季節性の異なる2つのグループを認識できるという結果を得ているが、マイクロサテライトマーカーにおいても、1-3月に成熟する集団と4-6月に成熟する集団の間に明確な遺伝的分化を確認することができた。解析ソフトSTRUCTUREを用いて個体のクラスタリングを行なった結果においても同様の結果を得ることができたが、一方で少数(336個体中、8個体)ながら例外的な個体も見つかり、また2グループ間の交雑を示唆するような結果も確認することができた。 また、28年には野外調査を行ない、新潟県本土沿岸のアカモク集団にも季節性の多型が観察されることを複数地点で確認した。サンプリングも兼ねて、それらの集団を対象として個体および集団の成熟期間の調査を実施した。野外調査の副産物として、生殖器官(リセプタクル)の形成と卵の放出との間に、時期的に大きなギャップがある個体がしばしば存在することを確認できた。従来まではリセプタクルのサイズを「成熟」の一つの目安としていたが、実際の卵(配偶子)放出期間とは必ずしも関連していないことがわかったため、卵放出期間を確認した個体をサンプルとした解析を行ない、成熟時期多型と遺伝的分化の関連について詳細を確かめる必要があることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マイクロサテライトマーカー候補となる31領域をテストし、うち7領域について佐渡沿岸の19集団336個体の解析を終了した。マーカー数にやや不足があるが、目的の一つである季節的多型をしめす同所的集団間の遺伝的分化としては十分な結果を得ており、1-3月成熟集団と4-6月集団の間には、Fst値として0.16(1-3月同士は0.11、4-6月同士は0.04)、Dest値として0.48(同じく0.21と0.16)という明確な遺伝的分化を確認できた。STRUCTURE解析では、3月-4月に成熟個体の所属する遺伝的グループが大きく変化することが示された。STRUCTUREの結果では、2グループ間の遺伝子流動を示唆する結果も得られているが、この点については更なるデータ解析が必要である。 これら2グループ間の生理的な違いについて、1-3月集団については臨界日長が短い(10時間/日)ことを示唆する結果を得ていたが、その後の実験で8時間明期/日でも成熟することがわかった。この結果は天然個体を培養下に持ち込んだ場合により顕著であり、また培養下だけでなく野外においても冬至前から生殖器官の形成をはじめる個体が少なくないことを確認した。 また、本年度、野外調査において本土側にも季節性の多型が見られることを確認した。その過程で、本研究で成熟の指標としていた生殖器官のサイズと卵放出期間が必ずしも相関しておらず、1ヶ月以上のギャップがあるケースがしばしば確認された。また、卵放出を終えても流失するまで時間がかかるケースも観察され、成熟時期=繁殖時期と考えると、これまでのサンプルの中には成熟時期が不正確に記録された個体が含まれていると考えられる。成熟時期と遺伝的分化の関係を明らかにするために、成熟時期をより正確に「卵(配偶子)放出期間」により定義したサンプルの解析を行なう必要があることが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
進捗状況に記したように、結果について正確を期すために成熟時期(繁殖期間)をより詳細に把握する必要があり、この目的で平成28年秋から個体を標識し、卵放出期間を調査しつつサンプリングを行なっている。すでに1-4月分については調査を終えており、今後も野外調査を行ないつつ、順次遺伝的解析を行なう予定である。標識個体サンプルだけでも、現時点で5地点50個体以上のサンプルを得ており、これらのサンプルのみを用いて遺伝的解析を行なうことで、より正確に成熟時期の多型と遺伝的分化の関係を明らかにすることができると期待している。 また。この個体標識調査については、調査頻度を上げる目的で本土側で行なっている。佐渡沿岸の集団を中心に用いてきた従来の解析サンプルに、本土側で採集した標識個体サンプルを追加することで、佐渡沿岸のみではなくより広い地理的範囲について、季節性と遺伝的分化の関係を明らかにすることができると期待しており、遺伝的分化に対する、季節性の変異と地理的構造の影響、それぞれの貢献度についてより正確に評価ができると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
野外における成熟時期に関する知見を増やす目的ではじめた野外調査において、本研究で開始当初から用いてきた「成熟」の判断基準に問題がある可能性が示唆された。より正確な結果を得るべく、卵放出期間を記録した標識個体をサンプルとした解析を進めている。季節性の多型という本課題の性質上、卵放出期間を記録した新しいサンプルを得るためには1年間計画を延長する必要があり、新しいサンプルの解析のために、予算の一部を繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
予算は新しく得たサンプルの遺伝的解析に用いる予定である。
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