研究課題/領域番号 |
26440211
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
西田 佐知子 名古屋大学, 博物館, 准教授 (10311490)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 繁殖干渉 / タンポポ / 外来種問題 / 種間相互作用 |
研究実績の概要 |
生物の分布を決める要因解明は分類地理学の重要なテーマの一つである。今まで生物の分布を決める要因としては、気候や地質条件、一過的な歴史的事情などの解明が中心に進められてきた。しかし最近は生物学的要因として、繁殖干渉という種間相互作用に注目が集まっている。申請者は、繁殖干渉が近縁な植物種間の分布にどのように影響を与えるのか解明するため、外来タンポポによる在来タンポポの分布変更に注目した。 繁殖干渉とは、他種(とくに生殖機構が似た近縁種)から繁殖過程で受ける悪影響を指す。植物における繁殖干渉は、近縁種の花粉を受けることで種子数が減ったり、雑種を作ることで健全な子孫が減る形などで起こる。申請者はこれまで日本各地の在来タンポポについて、その分布や生態、外来種からの繁殖干渉の受け方などを調べ、個体群間の違いを比較することで繁殖干渉が起こるメカニズムの解明を試みてきた。そして、在来タンポポの中には、繁殖干渉を受けやすい個体群と受けにくい個体群が存在することを発見した。 本研究ではこの発見を軸に、各地の在来タンポポ個体群の分布に、(雑種を含む)外来種からの繁殖干渉がどのように関わるのかを明らかにすることを目的としている。 当該年度は日本の在来タンポポの繁殖干渉に関する論文を発表するとともに、国際学会で研究成果について発表を行った。また、ヨーロッパを訪ね、日本では「外来」であるセイヨウタンポポやアカミタンポポなどの種の分布や繁殖状況を調査した。その結果、2倍体アカミタンポポは3倍体と思われるセイヨウタンポポとはほぼ完全に排他的分布を取っていた。一方、他の2倍体種で3倍体種と共存しているタンポポにおいては、繁殖干渉がほとんどないというデータを得た。さらに、イセハナビ属植物の分布様式を調べ、棲み分けや開花周期の要因として繁殖干渉が関わっている可能性があるかどうか予備調査を敢行した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度には、以下の3項目を重点的に行なった。 まずタンポポについて、行った調査結果について論文を国際学術雑誌に発表した。夏に中国で行われた国際植物学会でも研究成果を発表した。 次に、春にチェコとオーストリアを中心に調査した。現地には、日本では「外来」と呼ばれるセイヨウタンポポや、2倍体(有性生殖種で、繁殖干渉の被害を受ける可能性がある)と3倍体(無性生殖種だが花粉を生産するため、繁殖干渉の加害者になる可能性がある)の複数種が生育している。現地ではこれらの分布状況と繁殖干渉の強度を調査した。その結果は予備的なものであるが、繁殖干渉が分布様式に影響を与えていると考えても矛盾のないものになった。 その他、イセハナビ属のコダチスズムシソウについて台湾での調査を実行した。この種は、単独で生育している場所では毎年開花が見られるが、近縁種と分布を共有する場所では6年に1度だけ一斉開花して枯死する。このような生活史の獲得に繁殖干渉が関わっている可能性があると思い、昨年度から調査を行っていた(以前からこの植物を研究していた研究者の方に、共同研究として随伴して調査させて貰っていた)。当該年度は、コダチスズムシソウが台湾でどのような開花スケジュールを持つのか、6年に一度開花する場所がある場合は、そこに近縁種が分布するのか、という疑問に答えを得るため、台湾への調査に同行させていただいた。 これらの実績から考えて、タンポポにおける繁殖干渉と近縁種間の分布について成果を一つ出すと同時に、国外のタンポポや他の植物の繁殖干渉と分布について、大変興味深い事例へ研究をつなげる手応えを得ることができた。 ただ、後者2項目についてその真相を明らかにするためには実験などを行う必要があり、順調ではあるが計画以上の進展とまでいえる状況ではない。
|
今後の研究の推進方策 |
30年度は最終年度に当たるため、全体の総括および成果の発表を行いたい。また、タンポポ以外の植物における繁殖干渉の有無について調査を続け、繁殖干渉の植物における普遍性について考察することで、今後の研究発展に新しい展望を開きたいと考えている。 まず、これまでに得られたデータのうち、29年度までに発表できていない成果について、論文化を進める。外来タンポポから在来タンポポへの繁殖干渉が、他の外来との競争など(たとえば送粉者を巡る競争や、雑種化が進むことによるアイデンティティの喪失など)に比べてどの程度重要なのかを比較し、総合的に繁殖干渉の重要性を評価したい。その際、昨年度までにうまく進められなかったモデル構築にも試みたい。 次に、申請研究の過程で見つかってきた、タンポポ以外の植物の分布における繁殖干渉の影響について、その可能性を見極めるための調査をより進展させ、繁殖干渉の普遍性についてより深い考察を行いたい。 現在、繁殖干渉に関する動植物を含む解説書の発行を連携研究者らと目指しており、本申請で行った研究成果と、それに付随して文献などのまとめを行った成果を本の一部に加えることも、本申請の総括のひとつとしてぜひ成し遂げたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究補助のアルバイト賃金に予定していた額があったが、実際には作業が早く終わり差額が生じた。この差額については、次年度の物品購入または人件費に充てる予定である。
|