研究課題/領域番号 |
26440212
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
甲斐 嘉晃 京都大学, フィールド科学教育研究センター, 助教 (30379036)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 生物多様性 / 形態学 / 進化 / 分子系統学 |
研究実績の概要 |
2015年度は,カジカ科のキンカジカ属魚類,および前年度から行っていたメバル科のユメカサゴ属魚類の分析を主に行った.キンカジカ属魚類では,最も浅海に生息するニホンキンカジカ,やや深場に生息するキンカジカ,さらに深場に生息するオキヒメカジカについて比較を行ってきた.これらでは,特に尾柄部周辺の形態に変異が集中していた.これらのキンカジカ属魚類は,生息水深だけでなく,生息場所の底質が異なっている可能性があり,この原因と適応の可能性について精査している.また,ニホンキンカジカとキンカジカの分布域の境界付近にある青森県津軽海峡付近においては,2種の中間的な個体群が発見された.この個体群を詳細に調べたところ,ミトコンドリアDNAにおいてはニホンキンカジカの遺伝子型を持っていたが,形態学的には尾柄部の形態などキンカジカの特徴を兼ねそろえていた.一方,核ゲノムの分析においては,RYR3遺伝子領域,およびTMO4遺伝子領域の両方において,キンカジカとニホンキンカジカの遺伝子型が検出された.したがって,津軽海峡付近の個体群は,2種の交雑個体群であることが示唆された.今後,津軽海峡付近の個体群の生息場所など生態学的なデータを照らし合わせて,形態的変異の進化的意義を探る予定である. ユメカサゴ属魚類においては,深い海山に群れで生息するオキカサゴとそれよりも浅い場所に生息するユメカサゴにおいて,核ゲノムの分析をスタートさせた.ユメカサゴ属魚類においては,既に形態データとミトコンドリアDNAによるデータを昨年度までに得られている.核ゲノムの分析にはマイクロサテライトを用いて,4座で十分な変異を発見できた.また,予備的なデータであるが,ミトコンドリアDNAでは検出できなかった2種の遺伝的な差異が明らかになりつつある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2015年度は,採集や国内外の博物館の訪問などを精力的に行い,必要な標本の情報はほぼ得られた.メバル科魚類においては,ユメカサゴ属魚類,メバル属魚類の形態学的データはほぼそろえることが出来た.カジカ科魚類においては,メインで研究を進める予定だったキンカジカ属魚類の標本採集をほぼ終えることができた.その他,ホッキョクカジカ属,コオリカジカ属魚類についても,いくつかの種群をターゲットにして今後分析を進める予定であり,これらの標本採集と予備的データの収集はほぼ終えることが出来た.両属とも種数は多く,形態学的にも多様な分類群である.オホーツク海やベーリング海を中心とした標本採集で得られた予備的データから,「かたち」の進化過程を考えるのに適した分類群であると考えられ,次年度の研究につなげられる期待している.
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今後の研究の推進方策 |
メバル科魚類については,まずユメカサゴ属魚類の核ゲノムの分析を本格的に行い,各種の遺伝的差異を明らかにしておく.また,現在行っている北太平洋のユメカサゴ属魚類だけでなく,南太平洋と大西洋の各種についても分析に加える.予備的な研究では,北太平洋のオキカサゴのみがほかのユメカサゴ属魚類に比べて体型が細く,尾鰭のかたちが特徴的である.この形態的特徴の特異性をより明確にするために,他海域のユメカサゴ属魚類についてもデータに加えていく予定である. メバル科魚類のほかの属,特にメバル属魚類については,前々年度に進めていた頭蓋骨のデータをまとめて発表する.メバル属における頭蓋骨のかたちは,系統に関係なく,生態的な特徴とリンクしていることが明らかになってきており,一部たりなかったデータを補足して,論文としてまとめられるように進める予定である. カジカ科魚類については,キンカジカ属魚類の核ゲノムのデータを完全にして,種間の遺伝的変異を明らかにしておく.核ゲノムの解析遺伝子座数が少ないため,いくつか候補に挙げられる遺伝子座についてデータを取っていく予定である.また,前年度までに予備的解析を終えているホッキョクカジカ属魚類,コオリカジカ属魚類についても本格的な分析を進める.遺伝的データはミトコンドリアDNAの分析だけで十分であることが分かっているので,分析個体数を増やしていく.同時に,両属に含まれる各種の形態的データをとり,分析を進める.どちらの属においても,特に体高に大きな種間変異が認められているので,それらと生態学的な関係についても考察を進める.
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