研究課題
本年度は中国へ2回渡航し、ヘビの採集、防御行動の実験、毒成分の抽出、各種の頚背腺の有無の確認と形態計測、および、頚背腺周辺の毛細血管網の染色を行った。海南島ではアドラーヤマカガシを採集したのち、本種が頚背腺を持つことを確認し、報文としてまとめ公表した。また、スリランカで採集した種と合わせて頚背腺の詳細な形態比較を行い、論文としてまとめ、英国の動物学雑誌に掲載が決定された。ベトナムからは、共同研究者の協力によりさらなら標本を入手し、頸腺の形態計測を継続した。また、ボルネオから持ち帰った標本を詳細に分析し、頸腺を持たないことを確認した。これについても報文としてまとめた原稿を投稿中である。8月にはオーストラリアで開催された国際動物行動学会議に参加し、これまでに明らかになってきた近縁グループの系統樹に基づいて、頸腺システムの進化に関する口頭発表を行った。11月には米国の共同研究者を訪問し、今後の研究の推進方針を協議するとともに、毛細血管網の染色標本の分析手法について学んだ。さらに、12月には、タイで開催された国際シンポジウムに参加したおりにインドネシアの爬虫類研究者と懇意になり、今後、本プロジェクトの国際協力メンバーとして参画してもらうことで同意を得た。国内においては、5~6月にヤマカガシを採集し、ヒキガエル毒に対する生理的反応を解明するための室内実験を行った。さらに、ヒキガエル毒の耐性獲得の基盤となっているナトリウムポンプの遺伝的変異の解析のためのサンプルを採取し、DNA分析を進めている。中国から持ち帰った頚背腺毒の主成分化学物質の構造決定を京都大学農学研究科の協力者の支援を得て行った結果、その主成分はルシブファギンという、これまで西欧産のホタルにおいてのみ知られている特異的なブファジエノライドであることが判明した。
2: おおむね順調に進展している
マレーシア半島に分布する種の採集許可取得が難航しているが、代替国としてインドネシアとの共同研究を開始することが決定したので、今後は改善できるものと期待される。それ以外は、ほぼ計画通り進んでいる。
中国産のヘビ類の頸腺に含まれることが明らかになったルシブファギンが、ホタルを食べることによって蓄えられているのかどうかを検証することを最重要課題とする。まず、中国において頚背腺を持つ種を捕獲し、強制嘔吐を行うことによって、自然条件下での食性を明らかにする。さらに、ホタルへの餌としての嗜好性を確かめるために、室内において化学嗜好性実験および捕食実験を実施する。また、これらのヘビ類が分布する地域においてルシブファギンを持つことが予想されるホタル類を採集し、ルシブファギンを体内に保有しているかどうかを化学分析により確認する。さらに、ヘビがホタルを捕食後、その頚背腺にルシブファギンが蓄積されるかどうかを室内実験により確かめる。化学分析が遅れているスリランカ産の種に関しては、現在サンプルの輸出許可を申請中であり、許可され次第日本へ輸送し、物質の同定を行う。マレーシアでの採集許可が取得される見通しは低くなってきたので、新たに参画したインドネシアの共同研究者を訪問し、重要種であるハブモドキ属2種の採集を実現する。これらと並行して、近縁種の分子系統樹を完成し、頸腺システムの進化過程についての最終結論を出す。8月には中国の杭州で開催予定の第8回世界爬虫両棲類学会議に参加し、本プロジェクトの成果を発表する。また、本会議に各国の共同研究者を招聘し、第3回となるワークショップを会議後に開催する。ワークショップではこれまでの成果の内容を共同研究者の間で共有するとともに、本科研費が終了後した来年度以降のプロジェクトの推進方策についても協議する。
若干の次年度使用額が生じたが、ほぼ予定通りに執行できている。
最終年度は当初予算がやや少なめだったので、補填として使用する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)
Current Herpetology
巻: 35 ページ: 53-58
10.5358/hsj.35.53
Journal of Zoology
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
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