日本沿岸産頭足類10種から5属25種の新種を発見し、そのうちクモダコとツノモチダコから3属11種のニハイチュウ類を新種記載した。記載と同時に進めてきた分子系統解析の結果からは、属を分類する極帽と呼ばれる重要な形態形質(形態や構成細胞数)が、系統を反映しておらず、二ハイチュウ類の系統は、宿主の種や生息深度と関連が深いことが示唆された。この極帽の形質が、発生プロセス上のわずかな違いで生じることから、極帽における変異は頻繁に起こりうると考えられる。したがって、今後ニハイチュウ類の分類形質を精査し、大きく分類を見直す必要性が生じた。 ニハイチュウ類は極帽部の繊毛を腎臓の上皮細胞に接触させ生活しているが、極帽の形によって生息場所が異なり、棲み分けがみられる。新たに発見した種を加え、種数を増やし、より多くの種を用い、ニハイチュウ類の極帽の形態と腎嚢に出現するニハイチュウ類の種の関係を調べた。その結果、1種類の頭足類にみられるニハイチュウ類の種数は、頭足類の種により異なるが、一定のパターンが確実に存在することが明らかになった。腎嚢内で同時に2種以上がみられるとき、同時にみられる種数と極帽の形態には一定のパターンが認められた。2種の場合、極帽の形態は円錐形+円盤形、3種の場合は円錐形+帽子形+円盤形、4種以上では、これら3タイプに不定形が加わる。このように、極帽の類似する種は共存せず、異なった頭足類の種間でみられた。また、分子系統樹による解析からも、宿主間で極帽の形態形質の収斂がみられることが明らかになった。その一方で半数に近い種で、ホストスイッチングも認められ、みかけ上は形態が収斂しているようにみえるが、他の宿主から移り住んできた種があるなど、ニハイチュウ類の形態形質の進化過程は単純ではなく、厳密には収斂といえない関係もみられることが明らかになった。
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