本研究はザトウムシでみられる環状重複および二重侵入などをともなう染色体の地理的分化関与の種分化過程の検討を目的としておこなっている。本年度は以下のような成果を得た。 併存性単為生殖種(雌雄を含むfacultativeな単為生殖種)であるヒラスベザトウムシLeiobunum manubriatum(2倍体集団と4倍体集団を含む)とタマヒゲザトウムシL. globosum(雌雄ともに4倍体集団)について分子系統解析をおこない,後者は前者の4倍体集団と姉妹群となることを確認しえた。したがって,ヒラスベザトウムシは側系統群となる。 アカサビザトウムシGagrellula ferruginea(以下アカサビ)の屋久島の集団は,九州本土に生息するアカサビとオオクロザトウムシG. grandisの中間的色斑をもつためアカサビとオオクロが屋久島を経由した二重侵入で種分化した可能性が疑われていたが,分子系統解析の結果,屋久島のアカサビの集団は九州南部のオオクロや九州中部以北のアカサビの集団とではなく,九州南部のアカサビ+九州中部と四国のクロザトウムシ(G. sp.)と姉妹群であることがわかった。したがって,当初の二重侵入仮説は否定され,アカサビ種群の分類・系統についてはかなり大幅な見直しが必要であることがわかった。 東北地方に広域に分布するアカサビ東北型は広範囲で2n=12であることがわかった。東北のアカサビと関東地方のアカサビが交雑帯を介して相互以降するか,それとも生殖隔離を達成しているか,については上信越地域におけるさらなる分布と核型の調査が必要である。
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