研究課題/領域番号 |
26440219
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
山田 俊弘 広島大学, 総合科学研究科, 准教授 (50316189)
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研究分担者 |
近藤 俊明 広島大学, 国際協力研究科, 特任准教授 (40391106)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 集団遺伝 / 系統地理 / マイクロサテライト |
研究実績の概要 |
ビロウ(Livistona chinensis var. subglobosa)は、琉球・薩南諸島に分布するヤシ科の植物であるが、九州北部や四国南西部など、分布の中心から遠く離れた島嶼部にも隔離的に分布している。こうした隔離分布について、遺存種仮説や海流散布仮説が提唱されているが、ビロウが自生しない本州においてもビロウは宮中や神社の祭祀において重要な役割を果たしてきたことから、古代琉球とヤマトの文化交流の結果、九州・四国に持ち込まれ定着したとする説もある。本課題は、分布域全域を包含する集団を対象にしたマクロサテライトマーカーを用いた遺伝解析から、隔離ビロウ集団の起源解明を目的とするものである。 2年度目にあたる平成27年度は、本研究では分布域全域を包含する23集団を対象にマイクロサテライト遺伝子座13座の多型情報に基づく解析を行い、隔離ビロウ集団の起源解明を試みた。その結果、九州北部の一部の隔離集団を除く20集団は、生物地理区の境界でもある渡瀬線付近を境に、奄美諸島以南とトカラ列島以北(隔離集団を含む)で異なる2つの系統に振り分けられた。奄美諸島以南では高い遺伝的多様性と集団固有のアリルが観察されたのに対し、トカラ列島以北では多様性が低く、特定のアリルのみが高い頻度で観察された。これは奄美諸島以南の集団が温暖な気候帯において安定的に存在してきたのに対し、トカラ列島以北の集団は最終氷期以降など比較的最近の分布拡大によって形成されたことを示唆するものであった。一方、分布域北端に位置する九州北部の隔離集団は琉球諸島の集団と近い系統関係を示した。こうした傾向は海流散布では説明がつかず、人為起源である可能性が高いと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
隔離ビロウ集団の起源解明にあたっては、高い多型性を示す高精度の遺伝マーカーが必要となる。ビロウ属植物については、研究分担者および研究協力者により、近縁種においてマイクロサテライトマーカー20座がすでに開発されているが、本研究対象種であるビロウにおいても、これらマイクロサテライトマーカーが十分な多型性を示したことから、新たに遺伝マーカーを開発することなく、遺伝解析を行う十分な時間を確保できた。
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今後の研究の推進方策 |
平成26・27年度において、(1)隔離ビロウ集団の大部分が最終氷期以降の気温の上昇に伴い海流散布によって形成されたこと、(2)一部の集団については、海流散布では説明がつかず、人為起源である可能性が高いこと、などが明らかとなったが、隔離ビロウ集団の起源解明にあたっては、集団の成立年代を正確に推定する必要もある。 現在、サンプルが不足していた沖縄地方を中心にサンプリングを行うとともに、これらのサンプルを追加したうえで、集団間の分岐年代推定を試みている。最終年度にあたる平成28年度においては、これまでに得られた遺伝構造解析の結果に、新たに集団の分岐年代推定を加えることで、包括的に隔離ビロウ集団の起源解明を試みる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
ビロウのサンプリング予定地のうち一つが、地権者の意向により昨年度のサンプリングができなかった。このため 当初予定していたサンプリングが実行できず、差額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
サンプリングができなかった集団に関しては、地権者との協議を進め、サンプリングの努力を続ける一方、代替のサンプリング地でのサンプリングを含めて検討し、当初の目的を達する。このための費用として差額分は本年度に用いる予定である。
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