研究課題/領域番号 |
26440220
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
舘 卓司 九州大学, 比較社会文化研究科(研究院), 准教授 (20420599)
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研究分担者 |
兵藤 不二夫 岡山大学, その他部局等, 准教授 (70435535)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 安定同位体 / 捕食寄生 / 人工培地 / 炭素・窒素同位体 / 寄主選好性 |
研究実績の概要 |
植食者の寄主植物やその利用範囲に関するデータは,種分化・多様性(進化学)研究に重要な役割を果たしている.一方,捕食寄生者では成虫の比較形態学による多様性研究(記載分類)は行われているものの,種分化に関する研究は明らかに不足している.これは捕食寄生という特殊な生活史をもつため,自由生活を送る成虫からは幼虫の情報(寄主やその利用範囲)が得られないからである.そこで,捕食寄生性ヤドリバエの寄主昆虫の推定に関するデータを蓄積するために安定同位体分析およびIn vitroによる実験などをおこなった.飼育実験では,鱗翅目アワヨトウにブランコヤドリバエやセスジハリバエ,膜翅目ルリチュウレンジハバチにキアシハリバエを寄生させて飼育し,炭素・窒素安定同位体分析して,データ間の比較をおこなった.さらに,日本および海外でのフィールド調査もおこない,野外個体を収集してデータの蓄積もした.特に,日本のフィールドでは,鱗翅類幼虫やその食草,カメムシ類,鞘翅類などもあわせて分析をおこなった.In vitroでは,ブランコヤドリバエを用いたアワヨトウ蛹体液やそれを使わない培地の開発もおこなった.安定した寄生成功率のための実験方法の改善と新しい培地開発にも取り組んだ.ヤドリバエ科の類縁性の推定のために,本科を含む複数の科からのDNA実験も並行してすすめた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
飼育実験における植物(人工飼料)―植食者―寄生者間の炭素・窒素安定同位体比は,理論的データとの整合性が高く,非常に興味深い.室内実験による単寄生と多寄生の安定同位体比の違いは認められず,貧栄養よる成虫の体サイズとの関連はないことが明らかになった.一方,野外個体の炭素・窒素安定同位体比は,振れ幅が非常に大きく,餌の違いによる影響を示していると考えられる.そのため更なるサンプル数の増加が必要である. 博物館収蔵のサンプル(寄主の異なる同種)の分析が遅れている.寄主名は明確であってもその寄主の餌起源が不明であれば,安定同位体比の解釈に多くのサンプルが必要となり,課題が多い. In vitroでは寄主体液を用いない培地の開発に成功したものの,まだ成功率は十分とは言えない.加えてそれ以外の寄主(ハバチ類)などの培地の開発には着手できていない.それは,野外から多数の個体は安定同位体分析用に使用したためである. 昨年度は治安の問題から予定していた地域での調査計画がうまく立てられず,別地域(台湾)で調査をおこなったが,天候が思わしくなかった.
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今後の研究の推進方策 |
安定同位体分析では,ランビル(マレーシア)にて調査・収集した双翅類全般のデータを算出し,他の昆虫類との比較をおこなう.国内では,同一地域での多数個体の分析をおこない,餌(寄主やその食草など)の違いによる個体変異の幅を把握する.また,博物館に収蔵されているサンプルも分析し,変異幅の理解の一助にする.In vitroではアワヨトウに加え,ハバチ類などの他種による培地の開発もおこないながら,寄生率の向上をはかる.
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次年度使用額が生じた理由 |
共同研究者とのランビルでの調査日程の調整がうまくできなかった.また,アワヨトウ以外の培地の開発がおこなえておらず,その部分の実験ができなかった.
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次年度使用額の使用計画 |
今年度,すでに共同研究者とのランビルでの日程を決定して,旅費等に使用予定
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