野外における双翅類の炭素・窒素安定同位体のデータを加えるために,ランビルヒルズ国立公園(マレーシア)にて調査をおこなった.特に,捕食寄生性ヤドリバエ類と,腐食性や分解者など食性の異なる種との違いや,共同研究者がこれまでにこの調査地において分析した他の昆虫類との比較を通して,それぞれの栄養段階における相対的な位置などの違いを明らかにした.また,昨年度までの結果から,野外データの安定同位体比は比較的に個体差が大きく,サンプル数の確保するために腐肉トラップや羽化トラップを用いた.まだ一部は分析途中であるが,鱗翅類幼虫の寄生者のヤドリバエ類は,明らかに動物質の分解者である腐食性種のクロバエ類とは異なる同位体比を示し,さらにこれまでの分析データでは得られていない生態的位置に存在することが示された.その他の土壌性種においても様々な段階の分解者のデータが示され,双翅類の食性の多様性を示す一定のデータが提示できた.なお,各種の同定のためにDNAバーコーディング領域や関連領域の解析も並行しておこなった. 一方,実験室内における捕食寄生性ヤドリバエの炭素・窒素安定同位体比では,寄主であるアワヨトウの餌として人工飼料(インセクタ)を用いて飼育していたが,この人工飼料の同位体比は一定ではなく,加工日や生産日などの商品ごとに異なり,それがアワヨトウやヤドリバエの同位体分別に影響を与えていることがわかった.そのためこれまでの実験データをすべて見直し,再実験をおこなった.また,寄生者は多寄生していることが知られており,1-4個体を寄生させた場合のそれぞれの同位体比を追加実験し,その分析もおこなった.その結果,寄生バエの多寄生に伴う体サイズの減少には同位体比の影響がないことを統計的にも明らかにした.
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