生物においてクローン細胞間、あるいは同個体内で有性生殖が行なわれる場合をホモタリズムと呼ぶ。また、自家不稔であり、有性生殖に別の系統が必要な場合をヘテロタリズムと呼んでいる。なぜ多様な生殖様式が存在するのだろうか。そしてどのような分子機構で制御されているのだろうか。このような生殖様式の問題を解決するために、酵母、粘菌、糸状菌類などで、性決定遺伝子に注目した解析が数多く進められているものの、不明の部分が多い。ヒメミカヅキモには、+型と-型の遺伝的に決定された性を持つヘテロタリック株(以下、ヘテロ株)と、1細胞由来の同一クローン同士で接合子をつくるホモタリック株(以下、ホモ株)が存在する。ヘテロ株では、-型細胞ゲノムのみに存在し、接合型表現を制御するCpMinus1遺伝子が発見されている。一方、ホモ株は、近縁なヘテロ株との混合により少数のハイブリッド接合子を形成しうることから、有性生殖過程において、ヘテロ株のような性分化が生じているものと示唆されていた。このCpMinus1N遺伝子に注目し、CpMinus1N遺伝子発現抑制用ベクターに挿入したコンストラクトを用いて、形質転換体を作出した。近縁なヘテロ株との接合実験を試みたところ、CpMinus1N遺伝子発現抑制体はヘテロ株との接合を進んで行ったことから、ヘテロ株のような表現型を持っていた。このことからCpMinus1N遺伝子がホモ化及びヘテロ化に関わることが示された。また、新規に採集・確立した株を含む、12系統のホモ株、ヘテロ株のResequenceを行うことで、様々な系統のCpMinus1N遺伝子や性関連遺伝子の配列情報を得た。ヘテロ株のマイナス型特異的な遺伝子を、複数のホモ株が保持していたことから、ヘテロ株のマイナス型細胞から、ホモ株が進化した可能性を考察している。
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