研究課題/領域番号 |
26440227
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研究機関 | 兵庫県立人と自然の博物館 |
研究代表者 |
高野 温子 兵庫県立人と自然の博物館, その他部局等, 研究員(移行) (20344385)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | アキギリ属 / 送粉生物学 / 性表現 / シソ科 / アキノタムラソウ亜属 |
研究実績の概要 |
2016年度は、2015年とは調査地を変え、アキノタムラソウとナツノタムラソウが近接して生育する兵庫県三田市の集団において、繁殖干渉の実態を探るための人工交配実験(同種間、異種間、対照)を行った。結果、アキノタムラソウは同種間の交配より異種間の交配の結実率が低いが、有意差は見られなかった。ナツノタムラソウは異種間も同種間も結実率は変わりがなかった。アキノタムラソウもナツノタムラソウも対照よりも実験操作している個体の結実率が低かったため、実験操作が結実率を下げている可能性も考えられる。2015年度と同様にアキノタムラソウとナツノタムラソウの遺伝解析を実施する予定であったが、解析を委託した業者との連絡が不十分でサンプルが腐敗したため、2017年度に解析を持ち越した。 さらにタジマタムラソウの変種ハイタムラソウ(S.omerocalyx var. prostrata)の送粉者について滋賀県内で調査を実施し、ヤマトツヤハナバチ、トラマルハナバチ、コシボソハナアブの類の訪花を確認した。また西表島でヒメタムラソウ(S.pygmaea)の送粉者調査を実施したが、残念ながら調査中に訪花動物を確認できなかった。開花個体数が充分得られなかったことと調査期間を通して雨天または曇天であったことも影響していると思われるが、多くのアキギリ属と異なり、開花直後から柱頭が開き授粉可能な状態になっていること、開花直後に未開の葯を確認したことから、雌性先熟花の可能性もでてきた。もしそうなら、これまでアキギリ属のみならず、シソ科全体を見渡しても初めてとなる性表現の報告になる。ヒメタムラソウはおそらく世界唯一の渓流沿い植物のサルビアであり、同属他種には見られないユニークな繁殖戦略を取っている可能性もある。ヒメタムラソウの繁殖戦略については、今後の調査課題としたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
アキノタムラソウ亜属の送粉者調査は当初の予定通り終了した。またナツノタムラソウとアキノタムラソウの交雑が予想以上に広範囲で起こっていること、アキノタムラソウとヒメタムラソウが他の日本産アキノタムラソウ亜属植物よりも中国のアキノタムラソウ亜属植物に近縁だということが判明し、予想以上の展開になりつつある。ただし予定していた集団解析がサンプルの取り扱いの不備により実施を断念したこと、ヒメタムラソウの送粉者については、調査を行ったにも関わらず明らかにできなかったことなど、予定より遅れている部分もある。総合的にみて、期間内にすべての調査を完遂できなかったことからやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度断念した兵庫県のアキノタムラソウとナツノタムラソウ近接集団の集団解析、およびヒメタムラソウの送粉者調査を再度実施する。滋賀県にもアキノタムラソウとナツノタムラソウの近接集団が存在することが判明したため、奈良県・兵庫県に引き続いて両種の間で遺伝的交雑が起こっているかどうか、繁殖干渉が起こっているかどうかを送粉者調査、人工交配実験、遺伝解析により明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
集団の遺伝解析を委託することになっていたが、輸送時のミスでDNAサンプルが腐敗したため委託を中止した。そのことにより委託費の使用が未使用になった。
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次年度使用額の使用計画 |
再調査のための旅費(15万円)、遺伝解析の委託費(25万円)、調査に伴う消耗品費(5万円)、論文投稿の際の英文校閲費(5万円)の予定である。
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