平成29年度はナツノタムラソウ・アキノタムラソウが側所的に分布する兵庫県・及び滋賀県の2集団の遺伝解析を実施した。兵庫県の集団ではある渓流の上流側にナツノタムラソウ、下流側にアキノタムラソウ(以下アキ)が分布しているが、見かけ上ナツノタムラソウ(以下ナツ)と判断して解析した個体21個体中、核遺伝子は20個体がナツ型で1個体のみアキとナツの両方の波形がみられる雑種様だった。葉緑体遺伝子は全21個体がアキ型であった。一方解析した見かけ上アキノタムラソウ26個体中、葉緑体遺伝子は全てアキ型だった。ところが核遺伝子はナツ型を示すものが6個体あった。28年度に解析した大和葛城山集団と同様、外部形態と遺伝子型が一致せず、両分類群間の遺伝子交流が起こっていることが示唆されたが、大和葛城山集団とはパターンが異なることが明らかになった。 滋賀県の集団では、山のふもとにアキノタムラソウが10個体程、中腹にある水路縁にナツノタムラソウ約100個体が生育していたが、みかけアキ10個体、みかけナツ30個体の遺伝解析の結果、みかけアキは葉緑体・核遺伝子共にアキ型を持ち、みかけナツも全て葉緑体・核共にナツ型を示した。外部形態と遺伝子型との齟齬はなく、遺伝子交流は起こっていないと推測される。交流が起こっていない理由としては、①アキノタムラソウの生育環境が最近実施された工事現場の跡地近くであることから、側所的に分布するようになってからの期間が短いためと考えられる。また②両種の生育場所の距離は数百メートル程度だが、間にある杉の植林が送粉者の往来の障壁になっている可能性もある。
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