研究実績の概要 |
刺激の大きさ(閾値)に対して、On/Offの二値的反応しかできない素子の集団が集合的意思決定をするとき、素子間に閾値の分散があれば、2つの選択肢のうち、価値の高い方に、必ず多くの個体がon反応を示すため、多数決を使えば、必ず価値の高い物を選ぶことができる。選択肢の価値が閾値分散の分布の範囲内にあれば、どのような価値の組み合わせに対してもこの機構が働くため、選択肢がいくつあっても、集合的意思決定主体は最も良い選択肢を選ぶことが可能になる。社会性昆虫に見られる集合的意思決定では、最適選択には、選択肢の質に比例した反応(quality graded response)が必須だとされてきたが、上記の機構はそれを必要としないので、素子である神経細胞が二値的反応しかできないと考えられる脳の合理的意志決定を説明可能である。シワクシケアリの6コロニーで、ワーカーのしょ糖溶液濃度に対する閾値を測定した上で、quality gradedな動員が起こらない短時間の間に、上記のメカニズムが働くかどうかを調べた。ほとんどの働きアリは調査期間中一貫した閾値を示し、その値は個体により異なっており、コロニー内に閾値分散が存在した。すでに引かれたフェロモンの影響を除去するため、普段のえさ場と異なる2カ所においた3.5%と4.0%のしょ糖溶液のどちらに、多くの働きアリが反応するかを,エサ設置後15分間で調べたところ、両選択肢を訪れた個体数には有意差がなかったが、反応した個体は6コロニー全てで4.0%の方が多かった。閾値が3%より低い(両方にoff)LOW、3.0%にoffで4.0%にonのMID、両方に OffのHIGHの3クラスの反応を見たところ、LOWとHIGHは多数形成に貢献せず、MIDの決定が全体の意思を決めているという、理論通りの結果が得られた。少なくとも、アリの合理的集合的意思決定の基盤には閾値分散が存在してることが明らかになった。この結果は、Royal Society Open Science, 4:170097に発表された。
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