研究課題/領域番号 |
26440230
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
北出 理 茨城大学, 理学部, 教授 (80302321)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 社会性 / 利他性 / 初期コロニー / コロニー間相互作用 / 攻撃 |
研究実績の概要 |
今年度の研究から次の様な結果が得られた。 (1)有翅虫♂♀に創設させた通常初期コロニーと♀♀ペア創設の利己的個体を含む単為生殖初期コロニーの特性を比較したところ、単為生殖コロニーの生存率とコロニーサイズは通常コロニーより有意に小さかった。ニンフとニンフ型生殖虫は単為生殖コロニーでのみ生じ、カスト決定遺伝モデルの予測と合致した。(2)通常コロニーと単為生殖コロニーをペアにした20組を90日間相互作用させる実験の結果、半数近い組でコロニーの完全な融合が生じた。融合を起こさなかった場合でもコロニーの接触が起きたが、7組では単為生殖コロニー側が死滅し、少なくとも9組で子個体の一部がコロニー間を移動した。単為生殖コロニー由来の生殖虫の生存率は通常コロニー由来の生殖虫に比べて際だって低く、これが野外で単為生殖のみで繁殖する成熟コロニーが見られない理由と考えられる。(3)ヤマトシロアリを用い、コロニー創設ペア2つずつを互いの血縁度(母巣の異同)を変えて組にし、近傍に営巣させて相互作用させる実験を行った。60日間の相互作用後、元々のペアが異巣由来で、相手コロニーの異性と同巣由来であるようなのコロニーで最も融合率・生存率とも高いという結果が得られた。(4)有翅虫が同巣由来の近親交配初期コロニーと、異巣由来の外交配初期コロニーの特性を比較する実験を行った結果、飼育後3ヶ月でコロニーサイズが近親交配コロニーで高くなった。6ヶ月では明確な差は見られなかった。(5)初期コロニーが極めて集中分布し、相互作用すると考えられるオオシロアリの野外コロニーの野外でのマッピングを行い、コロニー間の遺伝解析を進めた。現在継続中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初期コロニーへの単為生殖卵の導入に非常に時間がかかりうまく進まなかったため、単為生殖と有性生殖で生じたコロニーを相互作用させる実験を先に行った。この相互作用実験は順調に進み、また初期コロニーが高頻度でコロニー融合や一部メンバー置きかわりをおこすことが明らかになったとともに、単為生殖コロニーが野外で見られない理由を説明できる興味深い結果が得られた。単為生殖卵の導入に関しては、H28年度に新しい導入方法を試し、そのコロニーの特性を解明すると共に、通常コロニーと比較することを予定している。また、当初計画のようにヤマトシロアリ属の野外の初期コロニーを多数見つけることはできなかったが、やはり初期コロニー間の相互作用や融合があると考えられるオオシロアリを用いた遺伝解析を進めた。
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今後の研究の推進方策 |
初期コロニー間の相互作用実験の際に、コロニー間を移動した個体の正確な数を把握するため、遺伝マーカーを用いたコロニー判定を行う。また、初期コロニーで産まれた個体を入れ替える手法を新たに用い、個体間の遺伝的多様性が異なるコロニーと、単為生殖で生まれた利己的遺伝子型個体を混入させたコロニーを作成し、コロニーの特性と適応度成分を比較する。オオシロアリを用いて、野外コロニー・集団の遺伝構造とコロニー間相互作用の影響を明らかにする。また、ヤマトシロアリの野外コロニーを用い、初期コロニーの利己的・利他的カスト生産にコロニー間の変異がどの程度あるかを調べる。以上の結果を総合し、初期コロニーにおける利己的遺伝子型個体の影響とコロニー相互作用について考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度、初期コロニー間の相互作用実験に用いた個体からDNAを抽出し、由来コロニーを調べるための遺伝子解析実験を行う予定であったが、その多くを来年度に行うように予定を変更した。このため、実験用消耗品の購入に使用予定であった助成金に余りが生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用分は、物品費として使用する。今年度まで行ってきたコロニー間相互作用実験で用いられた個体は冷凍保存してある。コロニーの融合や個体の入れ替わりが生じたコロニーで、個体の由来するコロニーを正確に判別するため、個体からDNAを抽出し、遺伝的多型を調べる実験を今後行う。そのための実験用プラスチック器具や試薬の購入に次年度使用額を充てる。
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