研究課題/領域番号 |
26440231
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
大橋 一晴 筑波大学, 生命環境系, 講師 (70400645)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 種間関係 / 進化生態 |
研究実績の概要 |
昨年度に確立したインターバル撮影技術を用い、開花時刻の種間比較に向けたスクリーニング調査を本格的に開始した。初年度の調査で100種を越えるデータを採取し、昼夜咲きつづける花のおよそ2割の種が、夕咲き・夜咲きであることを明らかにしつつある。これらの花の中には、予想通り 白い花弁や甘い花香といったガ媒花の特徴をもつものが多く含まれるものの、一方でツリガネニンジンのように、一見そうした特徴をもたないにも関わらず、日没後に花を開き、かつヤガ類にひんぱんに訪問される花もあった。さらにデータをふやすため、現在もこのスクリーニング調査を継続中である。 また、船本大智(筑波大学学類生)の協力を得て、菅平高原に自生するツリガネニンジンの雌期において、夜間のみ袋がけをした場合の結実率と昼間のみ袋がけをした場合の結実率を測定した。その結果、受粉はほとんど夜間のガ類によって行われることがわかった。昼間の訪花昆虫は夜間の2倍もひんぱんに訪れるものの、結実にはほとんど貢献しなかった。昨年度は昼に訪花するハナアブも受粉に貢献するというデータが得られたものの、これはあくまでもガが花粉をすべて運ばず昼間も花粉が余っていた場合のみ起こる現象であるようだ。むしろ夜間のみ袋がけした花は、昼夜袋がけした花よりわずかに結実率が低かった。このことは、夕刻に開花し、夜間のみ蜜を分泌するというツリガネニンジンの性質は、夜間の昆虫の誘引だけでなく、昼間の昆虫を排除するための適応でもある可能性を示唆する。現在、この内容をまとめた原著論文を執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ツリガネニンジンの調査は、昨年度までの結果をさらに補強するデータを得ることに成功し、学会発表で優秀賞を受賞した。現在、開始当時考えていたよりも高い水準の国際誌への投稿原稿を準備中である。また、広範な種について開花時刻をスクリーニング調査する「種間比較」の計画についても、自身の先行研究で各植物種の開花季節がよくわかっている科博植物園の利を生かし、解析に耐えうる量のデータを急速に蓄積しつつある。この中には、予想以上に多くの夕咲き種・夜咲き種が含まれており、これまで知られなかった花の適応形質として非常に興味深い。とりわけ、マルハナバチ媒花と長く信じられてきた世界的に有名な某属の中にも、夕刻に開花しヤガがひんぱんに訪れる種を発見した。この種については、自生地でさらに詳しい生態を調べる予定である。以上の状況を総合的に判断すると、当初の計画以上に進展している、との評価が最も妥当と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に引き続き、当初の研究計画に沿って研究を進める。大幅な計画の変更はないものの、神戸大学大学院の船本大智、岐阜大学の川窪伸光博士らの協力を仰ぎ、計画の進行をできるだけ早めることができるよう一層の工夫を施す。
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