生態分化は,これまで資源競争と局所環境適応によって生じると考えられてきた。一方,繁殖干渉による形質置換を介した生態分化は,近年注目される現象であるが,その実証例は未だ限られる。 カメバヒキオコシとセキヤノアキチョウジ(シソ科ヤマハッカ属)は,同所的に生育している場合があり,共通の送粉者としてトラマルハナバチが観察され,交雑の可能性が考えられる。本研究では,カメバヒキオコシとセキヤノアキチョウジ間の繁殖干渉と形質置換の有無を明らかにすることを目的とした。東京都奥多摩地域において調査をおこなった結果,(1)自然状態の種子生産は異所的集団より同所的集団の方が低くなり,(2)同所的集団の神戸岩では2種の開花ピークがずれており,昨年度と同じ傾向を示した。また,同所的な神戸岩集団では,2種の開花がずれていた個体の種子生産が,開花が重なっていた個体の種子生産より高かったことから,開花が重なることが繁殖干渉をもたらしていることが示唆された。繁殖干渉を避けるような開花フェノロジーの形質置換が生じている可能性が示唆された。 日本産のヤマハッカ属の8種6変種の48個体を採集し,葉緑体DNAと核DNAの変異に基づいて系統関係を明らかにした。葉緑体DNAの変異は種内で共有されておらず,種ごとにまとまらなかった。一方,核DNAによる解析では,種ごとにまとまったが変種ごとにはまとまらなかった。イヌヤマハッカ群とタカクマヒキオコシ群は異なる系統群となり,花筒長変異は複数の系統で生じていることが明らかとなった。
|