研究課題/領域番号 |
26440237
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
川窪 伸光 岐阜大学, 応用生物科学部, 教授 (60204690)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ツリフネソウ / 花蜜生産 / 非破壊的観察 / 花生態 / 特殊デジタルカメラ |
研究実績の概要 |
本研究は,以下の3つを目的として始めた。(1) 花器を損傷破壊せずに花蜜の分泌量の測定する方法を確立し,(2)送粉者の訪花 ・ 吸蜜行動タイミングと対照しつつ,時間軸に沿って連続的に花蜜量の変化を記録して(3)植物の花蜜生産の最適戦略を検討する。 花器を損傷破壊せずに花蜜の分泌量の測定する方法の開発は,全天候型デジタルカメラの改造を含めほぼ終了している。その実践的運用を模索し,H26年度では,引き続き「いつ・どのくらい」花蜜が分泌・生産されているのかを詳細に把握すること挑戦し,サンプル数は充分とは言えないまでも,ツリフネソウにおいて質的にほぼ満足できるデータを得ることができた。これらの結果は破壊せずに生きた自然状態の花の花蜜生産の実態として,はじめて把握された重要なデータとなった。 H27年度では,データの質を落とさずサンプル数を増やして,実験,観察を繰り返し,その花蜜量の増減が「どのように」変化するのかを明らかにするために,花蜜量の主たる減少原因である訪花者の採食行動と記録・対応させた。その結果,ツリフネソウでは主たる送粉昆虫であるトラマルハナバチの訪花が,花蜜がある程度たまったタイミングで起こることが判明した。つまり,トラマルハナバチは,花蜜量を何らかの方法で評価することが可能であり,訪花されたばかりで花蜜がほとんど無い花は確実に避けている。これは,他の研究者が暗示しているように,前訪花マルハナバチの体臭残存が間接的な蜜量マーカーとなっている実証データのなると考えられる。 また,新たにはじめたブドウ科ヤブガラシの花蜜分泌にて,花蜜量の経時的変化を把握できるようになった。この場合は,花色の経時的変化もモニターし,さらに訪花昆虫相も非常に興味深い構成として把握できた。ヤブガラシについては学会でポスター発表し,議論を深めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的とした3項目は,(1)花器を損傷破壊せずに花蜜の分泌量の測定する方法を確立し,(2)送粉者の訪花 ・ 吸蜜行動タイミングと対照しつつ,時間軸に沿って連続的に花蜜量の変化を記録し(3)植物の花蜜生産の最適戦略を検討することである。 このうち,最初の( 1 )でほぼ満足できる結果を得て,(2)の送粉者の訪花吸蜜のタイミングも具体的に記録できた。しかし,天候不順のために,思ったほどの観察例が記録できず,その点が,フィールドワークの困難性を実感する。とはいえ( 3 )についても見通しが立ったため。
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今後の研究の推進方策 |
夏・秋期のフィールド観察における,ツリフネソウ訪花昆虫,トラマルハナバチの出現頻度は,H27年度,極端に少なかった。これは,観察時期の天候不順のみならず,そこに至る春期の天候の状況によると考えられた。つまり,マルハナバチコロニーの成立時期の天候に関係する問題であると思われた。しかし,花蜜生産分泌の実態把握には,多くの訪花昆虫の行動記録との対照が非常に重要と考えられる。したがって,今後は,観察フィールドを,いくつかの地理的に離れた場所に設定して,調査を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
花蜜分泌に関係する研究成果の国際的共有と,発展的研究体制の模索のために,この分野で国際的に研究活動しているイタリア,シエナ大学のDr. Massimo NEPIやDr. Ettore PACINIと研究について議論するためにイタリア訪問を合意し,予定していた。しかし,H27年度は,大学教育公務のために時間がとれず,訪問機会を逸した。その旅費をやむをえず繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
花蜜分泌に関係する研究分野で国際的に研究活動しているイタリア,シエナ大学のDr. Massimo NEPIやDr. Ettore PACINIと,研究成果について議論するためにイタリア訪問をおこなう。時期は初冬を計画している。
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