研究課題/領域番号 |
26440241
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
安井 行雄 香川大学, 農学部, 准教授 (30325328)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 雌の多回交尾の進化 / 性選択 / bet-hedging / polyandry / evolution |
研究実績の概要 |
一般に雄は多くの雌と交尾するほど多くの子供を残せるが、雌は複数の雄と交尾しても(父親が入れ替わるだけで)子供を増やすことはできない。しかし多くの動物で雌は複数の雄と交尾する。この「雌の多回交尾」の進化は行動生態学・進化生態学の重要な研究課題である。 本研究は従来有効でないとみなされてきた遺伝的両賭け(bet-hedging)仮説をメタ個体群構造を取り入れた新しい視点から再検討するものである。平成27年度は前年度から継続しているコンピュータシミュレーションを用いた理論的解析の結果をまとめ論文執筆を行った。コンピュータシミュレーションではメタ個体群を構成するサブ集団の個体数が少なく集団間の遺伝子流動が制限されている条件を設定し、個々のサブ集団内でbet-hedgingが有効に働いて多回交尾戦略が勝ち残り、それがメタ個体群全体に広がることで多回交尾戦略の進化が起こるかどうかを検討した。 その結果、交尾相手の雄による繁殖の失敗が頻繁に起こり、かつ雌が雄の善し悪しを判定できない状況では、メタ個体群構造のなかで多回交尾戦略が多少のコスト(産仔数の減少)を伴っても1回交尾戦略に打ち勝ち進化できることが示唆された。また文字通りのメタ個体群(分断されたサブ集団が制限された遺伝子流動=個体の移住によって結びあわされている状況)ではなく、たとえ個体群全体に多数の雄がいる状況でも、雌雄の出会いの機会が限られていて、実際にそのなかで配偶者候補になるのは数匹しかいないという状況であればメタ個体群と同様の効果を持つことも明らかになった。このことは理論の適用範囲を大幅に広げるものである。今後さらに様々な条件において理論的解析を進めたい。 フタホシコオロギ実験個体群において理論を検証する予備実験を行った。個体差が大きく実験条件の改良を含め更なる検討が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
コンピュータシミュレーションについては前年度から試行錯誤しながら計算を繰り返していた。パラメータの設定条件によっては1回の試験に一週間以上の計算を要することもあり、また設定が変わると結果が大きく変わることもあり、全体的な傾向をつかみ法則性を引き出すには時間がかかった。しかしながら納得のいく結果を取りまとめた後は論文出版にまで比較的スムーズに進んだので進捗状況としては予想外に順調であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
コンピュータシミュレーションによって得られた興味深い結果を、解析的に説明できる数理モデルの構築を行うことにした。これにより理論的解析はより確かなものとなる。この研究にはあと1年ほどの実行期間を想定している。もし予想外のパターン(創発)が得られ新たな可能性が見えてきた場合にはさらにそれを発展させたい。またフタホシコオロギ実験個体群を供試した実証実験については、まずgood sperm仮説と遺伝的不和合性仮説といった従来型の仮説の検証を兼ねて予備実験を行う。仮説検証のための適切な実験条件を探索し、体制をしっかり整えて本実験に望みたい。研究発表や論文執筆は成果を受けて適宜行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度はモデル生物を使った実証実験よりも、コンピュータシミュレーションを中心とする理論解析、野外での動物の交尾行動の観察などが中心となったため、実験を想定した予算を消化するには至らなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
第3年目に当たる平成28年度は当初計画では予算が減ってくる年であったが、前年度からの繰り越しにより十分な予算が確保できる。恒温器など実験設備、顕微鏡や双眼鏡など観察器械の導入、共同研究のための出張旅費などに活用したい。
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