研究課題/領域番号 |
26440247
|
研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
難波 利幸 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (30146956)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 生物群集 / 構造 / 安定性 / ボトムアップ効果 / トップダウン効果 / 食物網 / ギルド内捕食 |
研究実績の概要 |
前年度に引き続いて,嗜好植物と不嗜好植物と植食者からなる食物網に栄養塩を明示的に導入し,それをめぐる2種の植物の競争を考慮したモデルを解析した。前年度との違いは,植食者の排泄物を通じての栄養塩の循環をモデルに取り入れたことである。植食者によって栄養塩の循環が促進されると,安定共存域が外部からの栄養塩流入が少ない方向にシフトする。そして,栄養塩流入が少ない領域では,トップダウンの効果がより強くなっても個体群密度の振動が起こりにくく系が安定化する傾向が見られた。つまり,栄養塩の循環は,状況によってトップダウンの効果を強めることも弱めることもあることが明らかになった。 ボトムアップとトップダウンの効果が生物的防除の効率にどのように影響するかについても研究した。天敵に対して適応的に防御する害虫と2種の天敵の一方が他方の天敵も食うギルド内捕食系で,スイッチング捕食の効果を調べた。ギルド内捕食が弱いときには,適応的防御は害虫を増強するが,多種天敵の導入によって害虫防除が促進される。スイッチング捕食そのものは複数の天敵の導入を有利にする効果を持たないが,害虫が適応的に防御している場合には,スイッチング捕食は雑食者に対する防御の必要性を減らすために,複数の天敵の導入を効果的にすることが明らかになり,生物的防除における有効な天敵導入の方法を示唆することができた。 また,イチゴを想定した空間明示的な害虫防除モデルをシミュレーションによって研究した。幼果の間引きや果実の摘み取りは害虫も天敵も畑の外に持ち出すために,天敵が減る害虫には有利に,餌が減る天敵には不利に働く。しかし,大きな良質の果実を収穫できる経済的効果も考慮すると,天敵が代替餌である花粉を利用することによるトップダウンの効果がボトムアップの効果を上回り,間引きの強度が高まるほど収量が上がることが分かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度には,ギルド内捕食系では,機能の反応が雑食者と消費者の共存に及ぼす影響を調べることに時間を費やし,ボトムアップ効果とトップダウン効果の相乗作用を解析することが不十分であった。しかし,平成27年度には,害虫と天敵を含む生物的防除の系に注目し,多種天敵の導入が生物的防除を促進するかどうかという視点を取り入れることにより,害虫の適応的防御によるボトムアップ効果と雑食者のスイッチング捕食によるトップダウン効果との相乗作用をより明確にすることが可能になった。 栄養塩と嗜好植物,不嗜好植物と植食者からなる食物網でも,植食者の排泄物を通じての栄養塩の循環を考慮することにより,栄養塩によるボトムアップ効果と植食者によるトップダウン効果が独立ではない系を解析し,両者の相乗効果をより明確にすることができた。 両者により,当初の計画とは研究の方向が多少変化したが,より容易にボトムアップ効果とトップダウン効果の相乗作用を明らかにすることが可能になり,前年度にやや遅れていた達成度を取り戻すことが可能になった。
|
今後の研究の推進方策 |
当初計画では,ダイアモンド食物網,植食者-植物系,ギルド内捕食系に栄養塩と捕食者を入れたモデルを使って,トップダウン効果とボトムアップ効果の相乗作用を調べることを予定していた。しかし,平成27年度に,害虫と天敵からなる生物的防除の系が,トップダウン効果とボトムアップ効果の相乗作用を見るのに適していることが分かったので,この系に空間的要素を取り入れ,農耕地における害虫のボトムアップ効果と天敵の逸出により非農耕地の在来種に及ぼすトップダウン効果の相乗作用について調べる。さらに,平成26年度と27年度に継続して研究してきた栄養塩と嗜好植物,不嗜好植物と植食者からなる系に捕食者を追加し,栄養段階の数によりトップダウン効果がどのように変化するかを明らかにする予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
所属大学で多忙な役職に就いたため,相手側研究者との日程調整が難しく,国内外の研究者の招聘費用の支出がなかったため。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成28年11月に予定されている日本台湾生態学ワークショップなどの機会に関連分野の研究者を招聘して意見交換し,研究テーマについての理解を深めるために支出する予定である。
|