研究課題/領域番号 |
26440248
|
研究機関 | 県立広島大学 |
研究代表者 |
内藤 佳奈子 県立広島大学, 生命環境学部, 准教授 (00453217)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 赤潮 / 鉄 / 植物プランクトン / 増殖メカニズム / 広島湾 / 播磨灘 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、赤潮原因藻類の未だ解明されていない鉄に関する基礎的な増殖生理研究について、多種の赤潮藻類に対する鉄取り込み機構の解明と実海域における鉄スペシエーションに関する研究を行い、赤潮藻類がどのようなメカニズムにより利用鉄種を取り込み、沿岸域において大量発生しているのかを明らかにすることである。 本年度は、西日本沿岸域において優占種となるにも関わらず、無菌培養が困難であった有害珪藻Eucampia zodiacusと有害渦鞭毛藻Cochlodinium polykrikoidesに対して、増殖における鉄利用能の検討を行った。開発した人工合成培地を用いた培養実験により、対象藻種の利用鉄種と有機配位子の産生能を明らかにすることができた。また、人工合成培地での培養が困難であった有害渦鞭毛藻Karenia mikimotoiとその他の主要な赤潮藻3種について、鉄濃度を多段階に設定した増殖実験と鉄無添加培地中の潜在鉄濃度の測定により、各藻種の最小細胞内Fe含量と増殖の半飽和定数を示すことができた。これらの増殖生理学的特性から、現場海域における有害藻類の増殖の可能性と他種との競合における優位性を評価することができた。 瀬戸内海沿岸域の水質調査については、広島湾(中部海域)と播磨灘(東部海域)における各層の海水サンプリングを月1回行い、植物プランクトン種組成と栄養塩濃度の季節変動を把握することができた。広島湾では、表中層での溶存態無機リン濃度とアルカリフォスファターゼ(AP)活性量との間に負の相関関係が認められ、とくに表層では植物プランクトン細胞密度とAP活性量との間に正の相関があることが明らかになった。播磨灘では、ノリ色落ち原因珪藻と栄養塩濃度との関係性を明らかにすることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、1. 鉄利用における取り込みメカニズムの解明、2. 実海域における優占種と鉄の関連性の把握、の2つの研究を並行して行っている。 1については、当初予定していた鉄利用能の検討に加えて、増殖の動力学的解析も実施して鉄の要求量を詳細に示すことができた。赤潮藻類によるシデロホア(鉄と強い親和力を持つ有機配位子)産生の検出は、検討した藻種数が当初の予定より少なく、次年度の課題となった。2については、海水中の鉄濃度を長光路フローセル搭載の分光光度計を用いてフェロジン法にて測定する予定であったが、長光路フローセルの不調により分析が遅れている。しかし、各海域における定期的な採水調査は予定通り進行でき、優占する植物プランクトン種と栄養塩などの化学的環境条件の分析に取り組み、それらの関係性を明らかにすることができた。以上から、総合的にみて研究はおおむね順調に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
当初の研究実施計画を予定通り進行する。利用鉄種の取り込みメカニズムについて、多種の赤潮藻類を検討し、シデロホア産生が明らかとなった藻種に対して、増殖段階(誘導期-対数増殖期-定常期-減衰期)と細胞外へ産生されるシデロホア濃度との関連性を把握する。また、これまでの研究結果より得られた各藻種の利用鉄種を用いて多段階濃度の条件を設定し、利用鉄種と産生リガンド物質との関係を明らかにする予定である。 実海域における優占種と鉄の関連性の把握について、平成26年度に引き続き、同定点における定期的な水質調査分析を行う。各海域における定点や採水層について赤潮発生との関連を確認検討する。とくに赤潮発生が生じた場合は、調査回数を増やすなど適宜対応する。これらにより、各海域の優占種と鉄濃度および栄養塩濃度の季節変動を把握する。また、年間を通した測定データの比較解析を行う予定である。
|