各地の沿岸環境に多大な影響や被害を及ぼす赤潮の発生に対して、原因プランクトンの増殖機構を解明することは非常に重要である。赤潮を形成する植物プランクトンの増殖過程において、鉄は必須の微量栄養元素として広く知られており、その重要性は国際的に認識されるようになってきた。しかし、多くの赤潮原因種は培養が困難であり、かつ微量鉄の取り扱いも難しく、増殖に対する鉄の要求量や利用能など十分に解明されていないのが現状である。そこで本研究では、多種の赤潮藻類に対する培養実験と実海域における鉄分析に関する研究により、赤潮藻類がどのようなメカニズムにより利用鉄種を取り込み、沿岸域において大量発生しているのかを解明するための研究を実施した。 本年度は、ミドリムシ類のEutreptiella gymnasticaと珪藻類のDitylum brightwellii、有毒渦鞭毛藻類のAlexandrium tamarenseの増殖に対して、人工合成培地を用いた培養実験により鉄要求性の検討を行った。A. tamarenseに関しては無菌培養法の更なる改良が必要と判明したが、他の2種については最小細胞内Fe含量と増殖の半飽和定数を示すことが出来た。さらにE. gymnasticaにおいては利用鉄種と有機配位子の産生能についても明らかにすることができた。これまでの結果から、主要な赤潮藻8種について細胞サイズを考慮した比較検討を行い、現場海域における増殖可能な細胞密度と他種との競合における優位性を評価することができた。また、瀬戸内海沿岸域(広島湾と播磨灘)における採水調査を月1回行い、植物プランクトン種組成と鉄など微量金属濃度の季節変動の把握を実施した。その結果、播磨灘沿岸底層でのノリ色落ち原因珪藻Eucampia zodiacusの細胞密度と溶存態の鉄、マンガン、亜鉛濃度との間の相関性を示すことができた。
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