研究課題/領域番号 |
26440249
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
中嶋 康裕 日本大学, 経済学部, 教授 (50295383)
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研究分担者 |
後藤 慎介 大阪市立大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (70347483)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 同時雌雄同体 / 性的共食い / 配偶行動 / 裸鰓類 / キヌハダモドキ / spiteful behavior |
研究実績の概要 |
本年度の最大の成果は、キヌハダモドキの性的共食いが、W.D.Hamiltonによって提唱されたspiteful behavior(敵対行動)に相当するのではないかという着想を得たことである。HamiltonはrB-C>0 (r:血縁度、B:対象個体の利益、C:行為個体のコスト)が成立するとき利他行動が進化するとしたが、このときBが負の値(被害を受けること)かつrが平均血縁度以下であれば、敵対行動が進化することも指摘している。これまでに敵対行動は細菌と多胚寄生蜂の2例見つかっているとされているが、詳細に検討してみると、この2例はいずれも誤りの可能性があるとわかった。 一方、キヌハダモドキの性的共食いでは、捕食した個体もされた個体もいずれも繁殖成功は増加しないことが昨年までの研究でわかっている。さらに、捕食した個体が産んだ卵塊を調べてみると、受精率が異常に低いことが今年度の研究で判明した。これは、精子の受け渡しの失敗ではなく、特異な交尾様式に合わせて巨大化した交接器を体内に収納するために受精嚢の壁が筋肉質ではなく薄い上皮組織になっていて、そのことで受精嚢から輸卵管への精子輸送に不都合を生じているとわかった。結果的に、性的共食いは行為個体にとってコストになっていて、敵対行動成立の条件の1つを満たしていた。 敵対行動成立のもう1つの条件である、血縁度の低い個体に不利益を与え、高い個体には与えないという識別を行っているかについては、キヌハダモドキにさまざまな成長段階の同種個体を遭遇させてみたところ、卵塊を除いて、すべての同種個体を捕食した。本種は浮遊幼生によって拡散するため、生涯に出会う可能性のある血縁個体は(自分が産んだ)卵塊だけである。したがって、卵塊を捕食しないことは血縁度によって行動を変化させることと同じ意味を持ち、この条件も満たしているとわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
DNA実験に関して、本研究の対象種の持つ特殊性のため、父子判定実施のためのプライマー作成が難しく予定通り進行していない。現在、十数個の候補プライマーの作成まで進み、有効性試験(多様性の判定)を行ったのちに、父子判定を実施する予定である。 また、沖縄で行っている中間的形質を持つ種の採集についても、昨夏に襲った台風の影響で潮間帯の環境が大きく変化したため、うまく採集できていない。 さらに、平成27年度の研究中に、当該の共食い行動がこれまで確認されていないspiteful behavior(敵対行動)に相当する可能性が浮上し、それについても理論的に検討する必要が生じた(ただし、これは必ずしも「遅れ」に相当するとは言えないと考えている)。
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今後の研究の推進方策 |
DNA実験については有効性判定までで一旦中断し、当該種の繁殖期である7月までは飼育実験に集中する。秋以降に再開して、父子判定の完了を目指す。また、これまでに採取したサンプルの全てをうまく解析できるかどうかわからないので、飼育実験においても新たなサンプルの確保を行いたい。 昨年度に発見した中間的な形質を持つ種については、本年5月に代表者が、9月に協力者が沖縄で採集を行って確保を目指す。 新たに該当する可能性が出てきたspiteful behavior(敵対行動)については、さらに理論的検討を進めて、秋の学会大会でのシンポジウム開催を予定している。また、この行動に該当するかどうかを検証する飼育実験を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費は、プライマー作成が予定より遅れて父子判定まで進まなかったために次年度使用額が生じた。旅費は、発表を予定していた国際学会を変更し、次年度に開催予定の学会での発表に切り替えたために次年度使用額が生じた。変更後の学会の方が研究内容に合っていると考えた。
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次年度使用額の使用計画 |
父子判定を行う準備はほぼ整ったので、物品費の残額をほぼ使い切って次年度に実施する予定。次年度には国際学会での発表を行うため、旅費も使い切る予定。
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