研究課題/領域番号 |
26440250
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
高橋 純一 京都産業大学, 総合生命科学部, 准教授 (40530027)
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研究分担者 |
土田 浩治 岐阜大学, 応用生物科学部, 教授 (00252122)
野村 哲郎 京都産業大学, 総合生命科学部, 教授 (50189437)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 外来種 / 保全生物学 / スズメバチ / ミツバチ / 在来種 / 環境 / 生態 / 対馬 |
研究実績の概要 |
本研究では、ツマアカスズメバチの対馬における生活史、帰化状況、侵入経路の推定、在来のミツバチやスズメバチへの影響を調査し、本種の帰化による対馬での生態学的リスク評価を行うことを予定している。対馬島内での分布調査により、2014年は68%の調査地点で本種が確認され、分布は島内北部に集中していた。しかし南部まで分布が確認されたため、島内全域に分布を広げていることが示された。 本種の20個以上の巣を採集・分析したところ、繁殖個体が見つかったことから既に島内で定着していることが確認された。侵入経路を特定するために東南アジアの10ヶ国以上と韓国・対馬の80個体以上のミトコンドリアDNAのCO1遺伝子を解析したところ、15個のハプロタイプが見つかった。 対馬個体群のハプロタイプは、韓国と中国のハプロタイプと完全に一致したことから、中国から韓国を経由して侵入したことが推定された。本種による養蜂被害を確認するため捕食行動の観察したところ、ミツバチの巣の状態により複数種の方法で捕食していた。ミツバチの捕食量を推定すると、本種の巣1つあたり年間1,000個体以上を捕食するためミツバチ群が死滅する原因になることが示唆された。また、キイロスズメバチ女王蜂の受精嚢内精子DNAを解析すると、本種との種間交尾が33%確認され、交雑・遺伝子汚染が危惧された。これらの結果から、本種の対馬での帰化は、養蜂被害や生物多様性の減少を引き起こす可能性が高いことから、侵入方法の特定と早急な防除方法の確立が必要である。 またこれらの成果は、日本昆虫学会で講演発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ツマアカスズメバチにおける分布・発生状況の調査及び生態の解明について現地での定期的な調査を行い、その結果から本種の生活史のおおよその状態を解明することができた。分布調査では、対馬市内において、北部を中心に過去2年と比較して個体群密度及び個体数が増加していることが確認された。調査のため捕獲した巣は、営巣地域の位置情報や巣の発達状況など記録し、分布密度、コロニーの遺伝構造、遺伝的多様度の分析を行い、基本的に他のスズメバチ属と同様の生活史および遺伝構造を持っていることが明らかにすることができた。さらに在来種と本種の間でのDNA マイクロサテライトマーカーによるジェノタイピング解析を行った結果、交雑が起きていることが少数サンプルであるが確認された。侵入経路を解明するためにmtDNA の塩基配列による分析から、侵入経路は中国産の系統が韓国を経由して対馬に侵入してきたことを示唆する結果を得ることができた。 人への影響及び生態系へのリスク評価を現地でのヒアリングおよび観察により行った。本種によるヒトへの刺傷被害は、これまでのヒアリング調査により年4件であった。刺傷被害および観察調査による結果から推定すると、本種の攻撃性は低いことから刺傷被害についても在来スズメバチと同等かそれ以下である可能性が高いことがわかった。ツマアカスズメバチによるニホンミツバチへの被害についてニホンミツバチ巣箱周辺に自動撮影カメラを設置し、自動撮影により捕食量、飛来数の測定、ニホンミツバチの防衛行動について観察調査を行った。その結果、ニホンミツバチは、絶滅するところまでの捕食量ではないことが明らかになった。また捕食行動には複数パターンがあることが行動観察調査によりわかった。
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今後の研究の推進方策 |
前年度から引き続きツマアカスズメバチの対馬市内および日本各地の侵入可能性のある地域での分布状況の調査、個体群密度の推定、営巣状況の観察、分散経路の遺伝マーカーによる推定、個体群内・間の遺伝構造解析を行う予定である。また捕獲した本種の巣や個体の遺伝学的解析を進め、生態的な適応要因や生態系への影響について他国での侵入事例と比較し、帰化による対馬での生物多様性に対するリスク評価を行う。さらに対馬へ侵入した定着要因について、遺伝子および行動生態レベルで解析し、その適用要因について考察をする予定である。 本種の根絶を目的として、誘引捕殺器の改良や遠隔地からの薬剤導入方法の検証についても改良を進める。さらに関係省庁や自治体との協議を進めながら不妊化処理個体の放飼のための室内実験で行う。最終的には、これらの結果をまとめて本種のリスク評価および防除方法の確立について最終年度に向けて準備を進める予定である。 またこれらの成果は、学会で講演発表および学術論文への投稿を行う予定である。
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