研究課題/領域番号 |
26440251
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研究機関 | 京都女子大学 |
研究代表者 |
中田 兼介 京都女子大学, 現代社会学部, 准教授 (80331031)
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研究分担者 |
繁宮 悠介 長崎総合科学大学, 環境・建築学部, 講師 (00399213)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 体色 / 種内変異 / 光環境 / 造網 / 進化 / 種間比較 / 円網 / クモ |
研究実績の概要 |
ギンナガゴミグモのサンプリング調査から、本種は夏に成体が現れる年1化性を示す事が確認された。また、ミナミノシマゴミグモについては、6月および9月に成体が多く見られる事から、年二化であることが示唆された。
ギンナガゴミグモ、ゴミグモ、ミナミノシマゴミグモについて造網場所の光環境を測定し、体色との対応関係について調べたところ、単型であるゴミグモが最も広い光環境幅で造網している事が明らかになった。しかしゴミグモの調査は5月に行ったため、気温の影響が大きくないと考えられる。そこでギンナガ、ミナミノシマの8月時点でのデータを既に明らかになっているギンメッキゴミグモの8月時点でのデータと比べたところ、体色変異の大きいギンメッキが最も広い光環境幅で造網していた。また、ミナミノシマゴミグモの体色変異は、メス成体の腹部画像解析により大きく3タイプに分けることができ、タイプ間で体サイズや既交尾個体比率に差は無かったが、採集時期と採集場所の違いにより3タイプの比率が変化した。光環境調査の結果からも、体色が明るい個体は暗い環境のみに分布し、体色が暗い個体は多様な光環境に分布することから、体色と光環境の間に何らかの関係があることが示唆された。また、各種の造網行動から、網形態に見られる特徴を明らかにした。
ギンメッキゴミグモについて卵を複数の温度条件に置いて飼育し、体色に与える表現型可塑性の影響を明らかにする事を試みたが、本年は飼育がうまく行かず十分なデータを得る事ができなかった。一方、飼育の過程で、本種がオスは生涯に複数回交尾する事が可能な一方で、ほとんどのメス個体が生涯に1個体のオスとしか交尾しない事が明らかになった。この事は、野外から採集してきた親子間の体色の相関から遺伝率を推定するうえで重要な情報である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
26年度は、1)対象種の世代時間の推定、2)ギンナガゴミグモとゴミグモの造網場所環境の調査、3)ギンメッキゴミグモの体色に及ぼす表現型可塑性の影響の解明、4)ミナミノシマゴミグモの体色変異の基礎調査を行う事を計画していた。このうち、1)、2)、4)については順調に研究が進み、成果が得られた。一方、3)については、飼育がうまく行かなかったために進展させる事ができなかった。
一方、ミナミノシマゴミグモの生態についての基礎調査を行う中で、27年度に行う事を予定していた光環境調査を前倒しで行う事ができた。このことにより27年度以降の研究実施に余裕を作る事ができ、本年における3)の進行の遅れを取り戻す事ができると考えている。また、飼育は失敗したものの、その過程でギンメッキゴミグモのメスが高い確度で生涯に一度しか交尾しない事を示す証拠を予期せず得る事ができた。この情報により、28年度に予定している、本種の体色の個体間分布の季節変動の原因を解明するために作成するシミュレーションモデルがより現実的なものになる事が期待でき、結果の信頼性が上がるものと考えている。
以上の事から、26年度の研究達成度について、一部の遅れが見られるものの、予定よりも進展した部分がある事、また予期せぬ新情報を得る事ができた事を考え合わせると、全体としてはおおむね順調な進展状況であると評価している。
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今後の研究の推進方策 |
先にも記述したように、本年はギンメッキゴミグモの体色に及ぼす表現型可塑性の影響を明らかにする事に失敗したが、これを27年度以降成功に導く事が重要と考えている。本種の飼育技術については、25年度までに確立できたと考えていたが、26年の結果を考えると、さらに改善の余地があると言えるだろう。26年の失敗経験を生かして飼育技術の改良を行う事を予定している。
また、過去の研究から、体色が餌の行動に影響を与える事が示唆されている。27年度以降は、この影響について種内に見られる変異個体の間での比較を通じて詳細な調査を行う事、および種間比較を通じてその進化的影響についても調査する事を計画している。ミナミノシマゴミグモの光環境については、26年度の調査から体色との何らかの関係がある事が示唆されたので、27年度以降も継続して調査を行う。
一方、ギンメッキゴミグモにおいてメスの1回交尾の証拠が得られた事については予期していない結果であったが、この情報は本種の体色の遺伝性を考える上で重要であり、体色変異の進化について明らかにするという本研究の目的に大きく資するものと言える。このため、さらに調査を行い結果を確実なものとする。また、メスの交尾回数についてはギンメッキ以外の種であっても重要な情報である。このため、同じ現象が他の種でも見られるかどうかについて調査を行う。これらは当初の研究計画にはなかったが、その重要性から計画に追加するものである。
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次年度使用額が生じた理由 |
光環境調査用に照度ロガーの導入を計画していたが、これを全天写真からデータ化する方法に変更した。全天写真は既存の設備を利用する事で撮影が可能であるため費用負担がなく、結果として照度ロガーの購入費用が余剰として生じた。また、3回予定していた成果発表旅費の使用が1回に留まったため、国内旅費に過剰が生じた。また、体色の表現型可塑性を調べるために、孵化個体を低温状態に保持する低温恒温器を導入したが、より小型で単純なものを導入したために余剰が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
27年度は国際学会での成果発表を予定しているが、その日時が8月半ばの最も航空券の高い時期になる事が判明し、当初の予算を大きく超える事が予想されている。26年度の過剰予算の一部をこの成果発表旅費の不足分に充当する事を予定している。また、一部は、クモの体重を測定するための精密天秤の購入に使う予定である。また、27年度に購入を予定していた飛翔軌道撮影用のカメラに関して、より撮影に適した機種が26年度に発売されたため購入を検討しているが、当初の予算では不足が生じるため前年度余剰分を充当する予定である。
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