研究課題/領域番号 |
26440254
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研究機関 | 独立行政法人国立科学博物館 |
研究代表者 |
西海 功 独立行政法人国立科学博物館, 動物研究部, 研究主幹 (90290866)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 福島原発事故 / 放射能 / セシウム / 森林生態系 / フクロウ / 繁殖 / ネズミ |
研究実績の概要 |
比較的高汚染の地域として、空間線量0.43-7.28μSv/hにあたる飯舘村と福島市小鳥の森に合わせて44個、低汚染地域として空間線量0.11-0.25μSv/hの土湯温泉から安達太良山に23個、コントロール地域として0.06-0.20μSv/hの会津若松市に16個の計83個の巣箱を2014年11月に架け、2015年11月には会津若松市に1個、高汚染地域の富岡町に2個追加し、計86個に増やした。2015年繁殖期の巣箱の利用率は、高汚染地域で11%(5巣)、低汚染地域で8.7%(2巣)、コントロール地域で0%(0巣)と、高汚染地域での利用率はむしろ高く、高汚染地域での繁殖率の低下は示されなかった。土、餌動物、遺棄されたフクロウの卵のセシウム汚染量を計測すると、土の汚染量が最も高かった。土は1.09 μSv/hの地点で15 kBq/kg、2.3 μSv/hの地点で29 kBq/kgなどで、0.2 μSv/h以上の地域では空間線量と直線的な関係を示した。餌動物の汚染量は個体差はあるがアカネズミとヒメネズミは平均して土の約40%、ハタネズミは約15%と低かった。ヒヨドリは土の約0.3%と非常に低く、渡り途中の個体を捕食していると思われた。留鳥のシジュウカラは土の3%ほどだった。フクロウの卵は土の約6%と低かったが、同じ地域で繁殖するシジュウカラの卵と比べると約10倍のセシウム量を示した。5巣10雛の成長を調べることが出来たが、そのうち2巣3雛の成長が悪かった。この2巣は共に空間線量が2μSv/hを超える高線量地域にあった。対して雛の成長が順調だった3巣は1.1 μSv/h以下だった。雛の血中における抗酸化物質(カロテノイド)の量を比較したところ、空間線量との間に負の相関が見られた。雛のフィトヘマグルチニン(PHA)に対する免疫反応の強さと空間線量との間に相関は見られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画ではビデオカメラを設置して給餌頻度や餌内容を調べることにしていたが、予備調査において巣箱の蓋にカメラを設置してみたところ、親鳥が餌をくわえて巣箱に入るときには下を向いていて頭部が邪魔で餌が見えず、親鳥が巣箱にいる間は親鳥がヒナを覆っていてやはり餌がビデオに映らないことが多いことが判明し、ビデオカメラは1台では十分に餌の同定ができないことがわかった。映像を撮ることに労力を割くと他の調査に支障をきたすため、ビデオ撮影を断念した。また、親鳥の捕獲を計画していたが、想定以上にフクロウの攻撃性が強く、危険を回避するために断念した。代わりに、巣箱の設置個数を予定の10個から85個に大幅に増やしたので、サンプルサイズが大きくなった点では当初の計画以上の進展といえる。総合的には概ね順調と評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
H28年度は高汚染地域のサンプルを増やすために富岡町(空間線量が約2~3μSv/h)に設置した巣箱でも調査をおこなう。調査地は高線量地域が富岡町と飯舘村、中線量地域が福島市小鳥の森、低線量地域が土湯温泉町と会津若松市になり、設置した85個の巣箱のうち、H28年度は現在までに11つがいの繁殖が確認された。これまでと同様に、餌動物のサンプリングとセシウム濃度の計測、雛の成長とカロテノイド量の計測、免疫反応の強さの計測をおこない、空間線量との関係を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
1)実験補助の謝金の人手が見つからなかったこと、2)野外調査でのヒナの計測など2名でおこなっていたものが工夫によって1名でできるようになり、調査旅費が節約できたこと、3)公用車を利用できたのでレンタカー代が節約できたこと、4)放射能測定を外注する予定にしていたが、植物研究部の測定器を借りて、放射能測定外注費を支出しなくてよくなったことの4点が理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
実験補助の謝金の人員が見つかったので、謝金を雇って、H27年度には測定できなかったサンプルの放射能測定や標本作製をおこなうことに次年度使用分を使う。翌年度分として請求した助成金は、当初予定どおり、国内の調査旅費、レンタカー・ガソリン費、野外調査補助と実験補助の謝金に使う。
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