研究実績の概要 |
東北、関東地方の5遺跡から出土した、合計22個体の古墳時代人骨からDNAを抽出した。得られたDNA溶液中のミトコンドリアDNA(mtDNA)のハプログループを、Kakuda et al.(2016)のMultiplex Amplified-Product Length polymorphisms法を用いて決定した。これら東日本の古墳時代人骨にみられたハプログループの種類および頻度を、東北地方縄文時代人および現代人のそれと比較することで、東日本古墳時代人の遺伝的特徴について検討した。 22個体のうち、ハプログループの決定が可能だった試料は13個体であり、観察されたハプログループは10種類であった。その種類及び頻度を東北地方縄文時代人および東北地方現代人と比較検討したところ、東日本古墳時代人には以下のような特徴があることが明らかとなった。 1)東北地方縄文時代人との共通性が少ない。今回観察されたハプログループのうち、共通しているのはN9b1のみであり、その頻度も低い。2)現代日本人で多くみられるハプログループD4(現代日本人に観察されないD4h2を除く)の頻度が高い。3)東北地方縄文時代人に観察されないハプログループが8種類(M7a1, D4a, D4j, F1b, G1a, D5b2, N9a, M9a)もある。 これらの特徴を総合すると、東日本古墳時代人のmtDNAの遺伝子型は、東北地方縄文時代人より現代人に明らかに近いことが明らかとなった。即ち、古墳時代には既に東日本縄文時代人の遺伝的影響が相当減少していた可能性がある。言い換えれば、稲作農耕文化を日本列島にもたらした渡来系弥生人集団の遺伝的影響は、古墳時代には既に、関東・東北地方においても集団の主体をなすほどに大きくなっていた可能性があることが示された。
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