平成28年度は,座位型の正弦波下半身陰陽圧装置(SLBNPP)を用いて持続的な起立性の負荷(SLBNPPの平均値)と周期的に変化する負荷(SLBNPPの振幅)に対する脳血流調節反応を被験者12名で検証した。持続的な負荷については、+20 mmHgと-20 mmHgの2水準、周期的な負荷の変動は、0.056 Hzと0.011 Hzの2水準とした。これらの圧負荷条件での循環動態を全身加温の有無で測定を行った。各指標間の変動の連関については、従来の周波数領域の伝達関数分析に、時系列データ間の関連度合を表すコヒーレンスをもとに、ゲインの推定精度という視点を加えSN比を算出した。ゲインのSN比は、脳血流速(MCAv)、平均血圧(MAP)、胸部インピーダンス(Z0)、および終末呼気二酸化炭素濃度(ETCO2)、および、圧負荷の正弦波曲線(SLBP)との間で算出した。SLBPの変動に対する生理指標のゲインのSN比は0.056 Hzにおいていずれも高い値を示したが、MAP、Z0、およびETCO2の変動に対するMCAvのゲインのSN比は、 MAP の変動に対するゲインにおいてのみ高いSN比を示し、Z0およびETCO2の変動とMCAvの変動の間の関連度は低いことが明らかとなった。ゲインのSN比は、いずれの指標間でも0.056 Hzと比べ0.011 Hzは低い値となり、90秒周期の変動では指標間の関連度が低いことが明らかとなった。全身加温の有無によるこれらSN比への影響はみられず、全身加温によっても同程度のSN比が期待できることが明らかとなった。全身加温より、MAPの変動に対するMCAvのゲインは有意に低下したが、SN比に違いが無いことから、関連度の違いによる影響ではなく、純粋に動脈圧反射の特性が変化したことが明らかとなった。暑熱環境下での立ちくらみについて考察する基礎的な資料が得られた。
|