本研究は,体性感覚や身体との相対位置に基づく方向認知の特性を機器操作系へ適切に反映させ,安全で操作しやすいヒューマンインタフェースの構築を目指すことが目的である.2つのサブテーマから構成されている. サブテーマ1は,身体と一側優位性に基づく操作方向と出力方向の対応関係についてである.1年目は,ボタン操作における一側優位性の影響を検討した.その結果,利き手と非利き手の方向認知の座標系が異なる可能性を示し,近赤外線分光法による精神的負荷と脳内血中ヘモグロビン濃度との間の対応関係も示した.続く2年目は,グリップを把持する際の握り圧分布から利き手と非利き手の把持パターンの違いを検討し,利き手と非利き手での把持パターンの差異を観察した.そして3年目は,タッチパネル上に設定したテンキー入力タスクを利き手と非利き手に課した際の操作成績と指の動きを,若年者と高齢者で比較した.その結果,操作成績における利き手の優位性が示され,また世代による違いが明確であった. サブテーマ2は,ヒューマンインタフェースにおける手ごたえ・触感の認知である.1年目は,触力覚提示装置を用いた実験を通して手ごたえの操作パフォーマンス上の効果を定量的に示し,その特性が利き手と非利き手で異なることを明らかにした.続く2年目は,マルチタッチインタフェースに触覚的手がかりを付与した複数の条件と付与しない条件についてキー入力実験を行い,前者の優位性を定量的に示した.また,3年目にかけて視覚障害のある操作者がタッチパネルを操作する際の行動観察調査を実施した.その結果,パネル周辺や裏面の複数の物理的手がかりが有効に利用されていることが示された. 以上の一連の調査・実験を通じ,視覚的手がかりだけでない体性感覚フィードバックや操作方向のイメージを付加することによる操作パフォーマンスの向上を図るための指針を得ることができた.
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