これまでに同定した種子脱粒性を支配する遺伝子座(qSH3)の原因変異を明らかにするために形質転換体の作出を行っており、本年度はそれらの後代を栽培して脱粒に関わる強度を測定することで、変異の効果を検証する実験を実施した。しかしながら、夏期において人工栽培室に突然の故障が生じたため、一部の系統では測定データが不足したが、人工気象器を用いた解析も並行したことから、原因となる変異を同定する実験結果が得られた。これらの実験から、高精度連鎖解析によって同定した変異のうちの1つが栽培イネの脱粒性を低下させることに関わっていることが明らかとなった。さらに、インディカ型栽培イネIR36を野生イネO. rufipogon W630によって戻し交雑した系統(戻し交雑自殖系統群)を用いて、インディカ型栽培イネの非脱粒性に関与したと考えられる遺伝子座について詳細に解析したところ、QTL解析からsh4遺伝子座が主要遺伝子座として同定されたが、用いた系統におけるqSH3遺伝子座とsh4遺伝子座における対立遺伝子の効果について詳細に解析したところ、qSH3も脱粒性の低下に関与している可能性が高いことが明らかになった。また、sh4とqSH3遺伝子座においてIR36の対立遺伝子を持つ系統においても、その脱粒強度はIR36に及ばなかったことから、インディカ型栽培イネの脱粒性の喪失にはsh4とqSH3に加えて少なくとも別の遺伝子座における変異が関与していることが明らかになった。本研究によって得られたqSH3における変異情報、ならびに交雑によって作出された遺伝解析材料は、本課題を基課題として採択された国際共同研究加速課題において継続して使用し、イネの栽培化における種子脱粒性の制御機構の解明をさらに進める。
|