研究課題
代表者は、澱粉の産業利用において重要形質である「澱粉粒の大きさと形」に注目して研究を進めている。澱粉粒の形や大きさは、植物種によってほぼ決まったパターンを示すが、その決定機構は全く分かっていない。本研究課題では、代表者が独自の方法により単離した「澱粉粒が巨大化する変異体」を解析することで、この決定機構について理解しようとしている。本年度は、澱粉粒が巨大化するイネの突然変異体ssg6の解析を進めた。さらに並行して、イネの複粒型澱粉粒(澱粉小粒子が集合して構成するタイプの澱粉粒)が登熟期にどのように形成されるかについて理解するために、コンピューターシミュレーション解析による解析を始めた。本年度の実績として、ssg6変異体に関しては、コンプリメンテーションテストによる原因遺伝子候補の同定。SSG6タンパク質の細胞内局在性の調査。胚乳以外の組織における澱粉粒の調査、他の澱粉粒巨大化変異体との多重変異体の作成。を行った。シミュレーション解析に関しては、澱粉小粒子の多角形の形が「ボロノイ分割」という空間分割方法で得られる図形とほぼ一致することを見出した。「ボロノイ分割」とは、分割対象 (今回の場合は複粒型澱粉粒) の内部に複数の母点を想定し、分割対象を構成する点集合を「どの母点に最も近接しているか」という基準によって分割する方法である。本年度、ボロノイ分割をもとにしてコンピューターシミュレーション解析を行い、澱粉小粒子がいかに集合し、複粒型澱粉粒の形成するのかを調べた。
2: おおむね順調に進展している
ssg6変異体の胚乳では、野生型に比べて巨大化した澱粉粒が観察された。登熟初期の胚乳で野生型と比較観察すると、ssg6変異体における澱粉粒の巨大化は開花後3日目の段階で既に始まっていた。また花粉においては、野生型で細長い形状の澱粉粒が観察されたのに対して、ssg6変異体の花粉では球状の澱粉粒が観察された。ssg6変異体の原因遺伝子は「アミノ基転移酵素」と相同性を持つタンパク質をコードしていた。細胞内局在性解析の結果、SSG6タンパク質はアミロプラストの包膜に局在する膜タンパク質である事が分かった。ssg4ssg6二重変異体の花粉の観察から、ssg4変異とssg6変異が澱粉粒の大きさの制御に関して、協調的に機能している事が示唆された。これらの結果をPlant Physiology誌に発表した。登熟胚乳における澱粉粒の観察とコンピューターシミュレーション解析の結果、複粒型澱粉粒が形成される過程で、澱粉小粒子の合成について以下の3つの特徴を明らかにした。①澱粉小粒子の合成開始のタイミングは、同一である。 ②それぞれの澱粉小粒子の成長スピードは同一である。③複粒型澱粉粒を構成する澱粉小粒子の数は登熟初期に決定され、完熟するまで変化しない。これらの結果をPlant Cell Physiology誌に発表した。
今後、澱粉粒の形と大きさに関する変異体のスクリ-ニングをさらに進めて、突然変異体を網羅的に単離する。EMS突然変異処理集団は、すでに作出済みであり、研究を円滑に展開できると期待している。また、これらの変異体の澱粉の特性評価について共同研究を行う。これら変異体の澱粉にはこれまでに無い澱粉特性を持つ可能性がある。突然変異体の新しい澱粉粒の形をコンピューターシミュレーション解析で再現できるのか?再現できるとしたら、再現するために変更したパラメーターは、どのような意味を持つのか?シミュレーション解析で予測される新しい形の澱粉粒を発達させる突然変異体は、実際に単離することができるのか?といった問いに答えるために、2つのアプローチを組み合わせながら研究を進める。このことによって、澱粉粒の大きさと形の決定機構に関して理解を進める。
所属研究所の改修工事に伴う、研究室の移転のため設備備品の購入を控えたため。
植物の育成に必要な備品の購入に充てる予定である。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 3件、 査読あり 5件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (2件)
Plant Physiology
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