「澱粉粒」は、植物細胞内で合成された澱粉が形成する粒子のことであり、植物種によってその形状は多様性を示す。特に穀類の胚乳においては、その形状多様性は顕著である。例えば、イネの胚乳の澱粉粒は複数の澱粉粒子が集合してできている。これは「複粒型澱粉粒」と呼ばれている。一方、オオムギやコムギは、1つの澱粉粒子から構成される「単粒型澱粉粒」を発達させる。澱粉粒の形は、澱粉の利用用途と精製効率を規定する重要形質であるが、澱粉粒の形が決定される仕組みはほとんど未解明である。本研究課題では、突然変異体、コンピュータシミュレーションならびに顕微鏡技術を用いて、澱粉粒の形が決定される仕組みを明らかする。 最終年度にあたる本年度は、澱粉粒とアミロプラストの可視化について新しい方法を開発した。澱粉粒の”大きさ”と”形”を研究する上で、澱粉粒の可視化は最重要の技術である。本研究ではこれまで、澱粉粒を従来のヨウ素染色法に従い可視化して観察していた。しかし、「澱粉の蓄積量が少ない登熟初期の澱粉粒を可視化できない」、「澱粉粒子が個別に染色されるために複粒型と単粒型の差を厳密に判別できない」という問題点があった。これらの問題点を解決するためには、ヨウ素染色法に依存しない澱粉粒の可視化法が必要であった。そこで、アミロプラストに効率的に移行するアミノ酸配列を同定し、それを融合したGFPを発現する形質転換体を作出した。アミロプラストの内部は澱粉粒がほぼ占有するため、この形質転換体では澱粉粒を生きたまま観察することができた。
|