本研究は、遺伝子機能獲得型変異体の一つであるFOXハンティングシステムを用いて、シロイヌナズナ由来完全長cDNAアグロライブラリーを西洋ミヤコグサ由来のユニークな根培養系(スーパールート)へランダムに導入しするファンクショナルゲノミックスの技術を確立するとともに、シロイヌナズナ由来の遺伝子がマメ科植物における根の成長と分化および根粒形成に対して影響をもたらす新規な遺伝子の探索と、それを用いて生産性を向上させる分子育種を展開するための基盤整備と、有用遺伝子をダイズへアグロバクテリウム法により再導入し、その機能性を確認するものである。 H28年度は、H27年度に作出したアスパラギニルtRNA合成遺伝子(SYNC1遺伝子)が導入されたダイズ遺伝子組換え体について、導入遺伝子の強発現がダイズの形態および種子のアミノ酸組成に及ぼす影響について調査した。定量PCRにより、導入遺伝子の発現量を確認したところ、組換え体は非組換え体に比べ、4.7倍高い発現量であった。形態調査では、組換え体が分枝数、分枝節数が有意に高く、種子数も増加傾向を示した。アミノ酸含量はダイズの植物体および種子について分析し、植物体では、組換え体のアミノ成分が高い傾向を示し、特に、根において、その傾向が顕著に認められた。種子では、発芽種子で両系統間に有意差を示すアミノ酸が多く認められ、導入遺伝子の作用に関連するアスパラギン酸、アスパラギンなどのオキサロ酢酸群やアラニンとロイシン等を含むピルビン酸群の小計が組換え体で有意に高かった。また、アミノ酸成分の合計も同様の結果を示した。 以上のことから、SYNC1遺伝子の強発現は、植物体の形態およびアミノ酸代謝に影響を及ぼし、作物の収量増加やアミノ酸成分の改良に有効であることが考えられる。
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