昨年度,少量のサンプルにおける効率的なRNA抽出法を確立したが,本年度では,実際にRNAを抽出後,RT-PCRによる発現解析を行った.ABAが細胞伸長に関する酵素をコードする遺伝子の発現に及ぼす影響を検討した.多重遺伝子ファミリーを形成する,総計56種の遺伝子の発現を検討した結果,ABA処理により対照区に比べて,発現量が増大,減少,変わらないものがみられた.発現量が増加する遺伝子は13種あり,これらは対照区に比べて約1.5~3倍の増加量であった.ABAによって発現が増加した遺伝子について,播種後日数と発現量との関係をみると,播種6日後の発現量をピークに8日後まで減少し,その後はほぼ一定値を示した.ABA区における中茎は,播種後8日頃まで伸長し,8日後以降はほぼ一定値を示したことから,当該遺伝子の発現量の増加と中茎の伸長には相関があると考えられた.また,ABAで発現が増加した遺伝子は,系統樹の中で近縁の位置にあったことから,当該遺伝子の類縁関係や分化と中茎伸長との関係を検討する必要がある. ABA処理における直播水稲の解析では,今年度は,ABAの浸種時間や処理濃度に着目し検討したが,依然としてABA処理籾の催芽状態や生育が不揃いであった.ABAの効果を導き出すには,補助剤の使用や効果が安定的にみられる処理法や播種条件および播種様式(湛水直播あるいは乾田直播)をさらに検討する必要があると考えられた. 前年度の実験で,浸種時の温度で中茎の伸長が促進されることをみいだしたが,GC-MSを用いて,内生ABAの動態を調査した結果,無処理に比べてABA含量が高く推移した.このことから,浸種時の温度が中茎の伸長に及ぼす影響を精査し,また生理的な作用機序を検討する必要がある.本年度は,最終年度であり,成果の一部を学会発表した.また,これまでの成果をまとめ,論文公表の準備を行った.
|