研究課題/領域番号 |
26450018
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
桂 圭佑 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (20432338)
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研究分担者 |
森塚 直樹 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (10554975)
槇原 大悟 名古屋大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (70452183)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | イネ / 畑栽培 / 節水 / 窒素 / フィリピン / ケニア / 国際研究者交流 |
研究実績の概要 |
昨年度の栽培試験の結果,集約的畑栽培の生産性は地域によって異なることが示された.本年度はまず,昨年度の結果を確認するため,日本,フィリピン,ケニアでの栽培試験を継続して行った.その結果,フィリピンでは集約的畑栽培条件下のイネの初期生育が湛水栽培条件下と比較すると,特に無施肥条件下で低下しやすいことを再確認した.一方で,施肥をすることで,生育は回復し,湛水栽培と同等程度の生育を維持することができた.このことは,集約的畑栽培で生育が不安定になりやすい環境であっても,水管理や肥培管理を適切に行うことで,多収を実現できることを意味している. このように地域によってイネの生育に及ぼす水環境×施肥管理の相互作用が認められた要因を解明するために,生育期間中に土壌溶液を経時的に採取した.今後,この土壌溶液中の窒素濃度の測定を行い,土壌からの窒素供給の環境間差異を分析する予定である.また,土壌硬度を調査したところ,日本やケニアと比較して,フィリピンの土壌硬度は等しい土壌水ポテンシャル条件下で比較しても集約的畑栽培条件で特に硬くなることが明らかになった.この土壌硬度の違いがイネの根の伸長に影響を及ぼした可能性がある.根長密度を測定したところ,日本,ケニア,フィリピンのいずれの環境においても,水田区と比較して,畑区の根長密度が低下していた. 一方で,日本の栽培試験では,生育後半に日射量が低下し,集約的畑栽培条件下で多肥栽培を行った試験区で倒伏が生じてしまい,収量が湛水栽培区と比較して低くなってしまった.再度栽培試験を行い,集約的畑栽培の潜在生産力の高さを確認する必要がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していた2年目の栽培試験を3か国において実施することができた.また,特にフィリピンにおいては集約的畑栽培条件下でのイネの生育が不安定になりやすいという現象を再確認できたことは大きな成果である.また,その要因を探るための土壌溶液のサンプリングや土壌硬度の測定など,着実にデータが収集できている.ある程度,要因を絞り込めてきていることから,次年度はポット試験などによって精密に環境を制御した栽培試験を行う予定である.一方で,日本での栽培試験は日照不足のためか,倒伏が生じてしまい,昨年度と同様の結果を得ることができなかった.次年度追試を行う必要がある.
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今後の研究の推進方策 |
本年度の結果より,フィリピンでは集約的畑栽培によってイネの生育が不安定になりやすいこと,土壌が硬くなりやすいことを確認した.今後はまずは採取した土壌溶液サンプルを分析することで,土壌からの養分供給を定量する必要がある.昨年度のインキュベーター内での土壌培養試験では土壌からの養分供給は十分あることを確認しているが,圃場条件下でも同様の結果が得られたとしたら,不安定な初期生育の原因は固くなりやすい土壌が根の伸長を阻害したためという可能性が非常に高くなる.そこで次年度は,ポット試験などで土壌硬度や水管理,施肥管理を厳密に制御した状況でイネの初期生育を調査することで,それらの要因がイネの初期生育に及ぼす影響を解明し,フィリピンでの集約的畑栽培稲作の安定多収に必要な栽培管理の提案を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
中国での栽培試験の実施については,昨年度に引き続き交渉を継続したが,先方の研究機関の人事異動のため,行うことができなかった.また,予定していたフィリピンでの雨季の試験も,諸事情により実施できなかった.このことが予算使用額が当初見積もりを下回った最大の要因である.
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次年度使用額の使用計画 |
中国,フィリピンでの圃場を使った試験の遂行が難しくなってきたが,これまでの栽培試験の結果から,必要な情報はある程度揃ってきた.今後はポット試験など精密に環境を制御した試験に重点を置いて研究を行っていく予定であり,そのための環境整備に予算を多く配分する予定である.
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