本研究室では、ナス属野生種の細胞質を利用したナス(Solanum melongena L.)の雄性不稔系統の育成に関する研究を行っており、これまでに6種類のナスの雄性不稔系統の開発に成功している。本研究ではナス属野生種S. giloの細胞質を利用したナスの新たな雄性不稔系統の育成を目指した。 S. giloを種子親、ナス‘Uttara’およびナス‘千両二号’を花粉親として、F1(S. gilo בUttara’)およびF1(S. gilo ב千両二号’)を作出した。これらF1に‘Uttara’および‘千両二号’を花粉親(反復親)として戻し交雑を行った結果、F1(S. gilo ב千両二号’)から戻し交雑第一代としてBC1の作出に成功した。今回の調査では、F1(S. gilo בUttara’)、F1(S. gilo ב千両二号’)および人工培地上で発芽させ育成したBC1の個体No.1、No.2およびNo.3を材料として用いた。 実験1について、DNAマーカーを用いてRfの有無を調査した結果、F1(S. gilo בUttara’)、F1(S. gilo ב千両二号’)およびBC1のすべての個体においてバンドの検出がみられた。葯の先端を観察した結果、すべての供試個体で葯が裂開しており、葯からの花粉の放出性が認められた。また、F1(S. gilo בUttara’)では花粉四分子の存在までは確認することができたが、花粉の形成はみられなかった。BC1ではF1(S. gilo ב千両二号’)よりも花粉稔性および種子稔性が回復していること、‘Uttara’を花粉親とした場合よりも‘千両二号’を花粉親とした場合の方が種子稔性が高いこと、ならびに雄性不稔の発現は花粉親として用いる栽培品種にも起因する可能性があることがわかった。実験2について、細胞質DNAは、F1およびBC1はS. gilo型の制限パターンを示した。 本研究の結果、S. giloの細胞質を利用した雄性不稔系統の育成には、‘千両二号’が有効であること、F1およびBC1の細胞質がS. gilo型であることがわかった。
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