研究実績の概要 |
トルコギキョウの花色遺伝の情報はこれまで皆無であり、AsenやMarkhamの色素研究、また、Daviesの遺伝子研究があったが、遺伝的背景は不明であった。本研究では、トルコギキョウの花冠形質を含む花色表現型(八重咲き、かすり咲き、黄色、白色)とその遺伝子型並びに複対立遺伝子型とF3’5’H遺伝子やF3’H遺伝子との関係をさらに精査することにより、トルコギキョウの花色遺伝の実態をほぼ完全に明らかにすることに特色がある。これを育種技術として取りまとめ、短期間(迅速)に、かつ、表現型を予測できたF1品種を作出する方法を提供できる。これは過去に例がなく独特であり、本研究でのみ得ることのできる独創的な研究成果として位置付けることができる。 1. 花冠形質の遺伝分析:実験は文献記載の栽培方法並びに交配方法に従った(J. Japan. Soc. Hortic. Sci., 73, 235, 2004)。かすりの形質とB / bの遺伝子型の関係を確認した。また、アンバー系統のフリンジの花冠形質についてF2系統の分離を観察した。 2. トルコギキョウ野生種18系統(系統番号BC1、BC2、BC2534、BCFW、IRPCC、RPCC、MICC、PICC、PISPI、LVSPI、BOCV、FSP、FMZAP、RGVHS、BAL、Blake、BCFW、BC2)の花色発現遺伝子F3’5’H遺伝子の調査並びに花色発現遺伝子F3’H遺伝子を調査した。 3. シアニック系花色の遺伝様式の観察:花弁の着色、非着色の花冠形質について、その遺伝的特性を観察した。 4. F1作出の実証試験:F1作出系統;SAIシリーズ10系統(SAI7, SAI22, SAI23, SAI33, SAI35, SAI37, SAI38, SAI40, SAI48, SAI102)の実証試験を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. かすりの形質とB / bの遺伝子型の関係を確認するため、自殖後代(F2)の分離を観察し、優性および劣性の単一遺伝子(B/b ;Bは全着色花になる優性遺伝子型、bはかすり花になる劣性遺伝子型)によって制御されていると結論した。また、アンバー系統のフリンジの花冠形質について、A遺伝子型を保有する場合はアンバー系統の花形が優性的に発現し、aaの劣性ホモ型の場合に通常花が発現することを確認した。 2. 野生種トルコギキョウのF3’5’H遺伝子を調査し、全てデルフィニジン単独型のEgHf1遺伝子を保有していたことから、新規遺伝子型HEとして帰属した。 次に、F3’H遺伝子がシアニジン系色素の生合成機能を有する遺伝子であることを特定した。なお、この成果を発表した論文(Horticulture J., 84, 131 (2015))は、平成27年度園芸学会年間優秀論文賞を受賞した。 3. シアニック系花(有色花)とアシアニック系花(白色花)との交雑実験から、花弁の着色が、優性および劣性の単一遺伝子(Ans/ans;Ansは色素が発色する優性遺伝子型、ansは色素が発色しない劣性遺伝子型)によって制御されることを見出した。 4. F1作出の実証試験:特に、草姿、かすり紫花色、早晩性について優れていたSAI7について報告する。一重の白色花(DSDSeebbansansHDHDpgpg遺伝子型、ホモ型、系統番号V85)を種子親とし、八重の桃色かすり花(DDDDeebbAnsAnsHFHFPgPg遺伝子型、ホモ型、系統番号V90)を花粉親として交配を行ったところ、F1個体の花冠はすべて八重となり、花色もすべて全色紫色のかすり花となった。SAI7の遺伝子型はDSDDeebbansAnsHDHFpgPgのヘテロ型であることから、遺伝子型から想定された表現型をSAI7系統として得ることに成功した。
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