近年育成されたナス単為結果性品種「あのみのり」およびその母本系統の持つ単為結果性は、果実肥大性および着果性を独立して支配する不完全優性の複数の遺伝子座によって制御され、単因子の劣性変異によるトマトの一連のpat 変異とは異なる機作によるものと推定される。さらに、花器官形成や種子形成などに特段の変異形質を伴わないことも実用上の大きな特長である。そこで、本研究ではこのナスの単為結果性の生理機構を詳細に解析し、解明を目指すとともに、トマト、ピーマン等のナス科果菜類の結実安定性向上につながる基礎知見を得ることを目的としている。 今年度は肥大性を支配する2つのQTL(A領域=後期肥大、B領域=初期肥大)と着果性を支配する1つのQTL(C領域=着果)を単独もしくは複合して持つCSSLs(A、B、C及びA+B+C系統)を用いて、開花から果実肥大過程における子房の植物ホルモンを網羅的に解析する事で、着果や肥大に特異的に働く植物ホルモンを明らかにするとともに、着果から肥大過程におこる植物ホルモン類の相互作用についての知見を得る事を目的とした。 内生IAA量はA系統において胚珠の急激な肥大に先立って顕著に増加した事から、後期の肥大に関与している可能性が考えられた。内生GA量は開花当日からA、B、C系統でLS1934受粉区よりも高い推移を示し、開花後の初期肥大に関与していると考えられた。内生CK量は、全てのCSSLsにおいて開花当日に高い値を示し、着果率も高い事から、着果に関与していると考えられた。内生ABA量はLS1934受粉区とA、B、C系統で同等の推移を示し、LS1934未受粉区では開花後急激に増加する事から、落果に関与していると考えられる。A+B+C系統では全ての植物ホルモン内生量が単独QTLと異なる推移を示し、各QTL間の相互作用により、各植物ホルモンの動態が変化したと考えられた。
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