白ワイン用ブドウの主要な品種群では、香り成分としてチオール系芳香性物質が重要であり、果実ではその前駆体のみ存在する。この前駆体の構造の一部をなすグルタチオンは、ブドウ特有の有機酸である酒石酸の前駆物質であるアスコルビン酸とともに、過酸化水素消去系を担う生体物質でもある。 本研究では、果実中の有機酸濃度の異なる遺伝資源およびチオール系芳香性物質に富むワインを産するブドウ品種において、果実発育に伴うこれらの物質の濃度推移と相互の関係性について明らかにすることを目指した。また、窒素や、硫黄およびアミノ酸の葉面散布処理が、温暖化する気候条件においても、ブドウの果実の有機酸およびチオール系芳香性物質の前駆体濃度を効果的に高めるかを検討した。 平成26年度の葉面散布試験は近年温暖化が問題となっている山梨県で実施した。窒素散布剤として尿素を散布した結果、ブドウ果実の成熟の遅延が認められ、ブドウ果実の糖度の上昇、有機酸の低下が無処理に比べ遅れる結果となった。この現象は白ワイン用ブドウでも、参考までに同時に実験を行った赤ワイン用ブドウでも認められた。赤ワイン用ブドウでは、アントシアニンの蓄積が遅れるという結果も見て取れた。窒素の葉面散布処理による病害防除抑制効果は認められず、却って病害発生を助長した。一方、窒素散布剤の処理は果実内のアミノ酸量を増加し、結果として、チオール系芳香性物質3-メルカプトヘキサノール前駆体の蓄積量も上昇した。 以上の結果より、温暖化気候において窒素源の葉面散布は果実内のチオール系芳香性物質の蓄積に有効に働くと思われた。
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