研究課題/領域番号 |
26450044
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
立石 亮 日本大学, 生物資源科学部, 准教授 (30267041)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | アラビノース / α-アラビノフラノシダーゼ / アクアポリン / カーネーション |
研究実績の概要 |
開花は花弁を構成する花弁細胞が肥大することによる花弁の伸長、展開、外側への反り返りにより生じるとされている。花弁の展開に伴う花弁の成長は、主に細胞肥大によって起こり、花弁細胞の肥大は、細胞内への水の流入と細胞壁のゆるみが必要となる。これまでの科学研究費による研究において、開花時の花弁細胞壁から特定の中性糖の遊離とそれに関わる酵素活性の増大がいくつかの種類の花で観察された。また、細胞壁由来のオリゴ糖が開花誘導に関わっていることも示されている。本年度はカーネーションを主な実験材料として用い、オリゴ糖処理を併用し、開花時における細胞肥大機構とアラビノースを含む多糖類の変化について関連遺伝子の面から検討した。カーネーションでは、8 個の PIP 遺伝子を含む 27 個のアクアポリン遺伝子が存在し、定量RT-PCRの結果、花弁ではDcPIP2;1とDcPIP1;1の2個のPIP 遺伝子が主に発現していた。これらの遺伝子の転写産物は他の組織でも蓄積していたが、花弁では開花過程を通じて高いレベルで維持されており、開花時の花弁の成長に関わっていることが示された。また、α-アラビノフラノシダーゼについては少なくとも9つの遺伝子が存在し、同様に定量RT-PCRの結果、開花の後半に2つの遺伝子の転写産物の蓄積量が増大した。この2つのα-アラビノフラノシダーゼは糖質加水分解酵素ファミリー3に属し、系統樹解析の結果、本酵素活性のほかにβ‐キシロシダーゼ活性を持つことが推察された。カーネーションでは、特定のPIPが開花時における花弁細胞への水の流入に関わり、その後、マトリックス多糖類であるアラビナンやキシランの分解が生じることで開花が起こる可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
開花時の花弁ではそれを構成する細胞への水の流入と細胞壁構造の変化によって細胞肥大が生じ、開花現象を引き起こしているとされている。平成28年度の実施計画では、細胞壁由来のオリゴ糖の開花に及ぼす作用機作や開花にかかわる酵素遺伝子の単離や発現解析を行うこととなっている。これらの結果について、本年度は、前述のとおり、開花時における花弁細胞への水流入にかかわるアクアポリン遺伝子の特定と開花時のアラビノース遊離にかかわる酵素遺伝子の単離を行った。発現解析の解析の結果から、ゲノム上に複数存在する遺伝子から開花に関与する遺伝子を抽出した。以上のように、ほぼ計画書のとおり実施されており、研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
酵素活性や遺伝子発現レベルの上昇が、花弁の細胞壁構造にどのような影響を与えているのかについて、組織レベルでの観察を中心に行う予定である。とくに、マトリックス多糖類については、免疫組織化学的手法を併用し、特定の多糖類の動態について明らかにする。また、酵素遺伝子についてはタンパク質誘導を試み、in vitroにおける生化学的特徴を明らかにするとともに、そのタンパク質の働きが開花時の花弁組織レベルで生じているかについても検証する予定である。これらの実験結果から、開花維持の花弁を構成するマトリックス多糖類の役割を明らかにしたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験計画に基づいて、開花時に誘導される酵素遺伝子の発現ベクターを構築し、タンパク誘導を試み、その生化学的特徴を明らかにすることを目的に研究を実施したが、活性を持つタンパク質の誘導が困難な状況にあり検討を重ねている。そのために、生化学的特徴の一つである基質特異性に関する実験を行うことができなかったために次年度使用額が生じた。しかしながら、本研究はもともと年度をまたいで実施される計画となっており、進行状況に伴って想定される範囲での次年度使用額である。
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次年度使用額の使用計画 |
タンパク質の誘導に関しては、植物組織や植物細胞を利用した発現系の構築もあわせて試み、研究を進行させる。次年度使用額はその研究経費(サブクローニングや培養のための経費)としても充当し、酵素遺伝子の生化学的特徴に関する結果を得る予定である。
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