研究課題
病原菌から攻撃された植物には、エピジェネティック記憶の仕組みによって耐病性のプライミングが誘導される。しかし、病害ストレスによって獲得された性質は、後代の植物に遺伝しないと考えられてきた。3年間にわたる本研究の結果、この常識が覆され、エピジェネティック変異を人為的に誘導できることが明らかになった。1)カルスにおける遺伝子発現とDNAメチル化状態の関係を調べた結果、プロモーター領域の脱メチル化とカルスにおける高発現が高い相関にあることが明らかになった。2)プロベナゾール(50または150μM)をカルス誘導培地のみ(50-0および150-0系統)カルス再生培地のみ(0-50および0-150系統)あるいはその両方(50-50および150-150系統)に添加し、カルスから独立に再生された5~10系統を得た。これらの系統群およびプロベナゾールを添加せずに得た対照系統群(0-0系統)について、いもち病抵抗性の強さを検討した結果、これらの個体はいもち病抵抗性を示すとともに、この抵抗性は世代を超えて安定的に遺伝することが明らかになった。3)バイサルファイト・NGS 法を用いて、プロベナゾール処理下で得た再分化イネ系統(150-0系統)のゲノム全体におけるメチル化状態を野生型の日本晴および対照系統(0-0系統)と比較した結果、150-0系統に特有のDNAメチル化パターンが見出された。4)150-0系統と0-0系統の遺伝子発現をRNA-seqにより網羅的に比較した結果、150-0系統で有意に発現上昇している遺伝子が535個見いだされ、このうち上位50個の大半は防御関連遺伝子であった。以上の結果より、外部からの刺激によって誘導されたエピジェネティック変異が世代を超えて安定的に遺伝することは明白であり、エピジェネティック変異を利用した抵抗性植物の育種技術を開発できる可能性が強く示唆されたと言える。
すべて 2016
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Pediaric Blood & Cancer
巻: 63 ページ: 221-227
10.1002/pbc.25778