研究課題
リンゴ由来のペクチンオリゴ糖(アップルペクチン)を幼葉期のイネに施用することで、根の生育が向上することが見出された。本研究では、イネ根におけるペクチンオリゴ糖誘導性タンパク質の発現を解析することで、植物成長促進作用のメカニズムを解明することを目指した。これまでの研究結果から、土壌中でのポット栽培では、ペクチンオリゴ糖の重合度やメチル化度よる根の伸長効果に違いは無いことが分かった。また、根由来のタンパク質二次元電気泳動の結果より、ジベレリン誘導性のタンパク質の発現が観察された。この結果を受け、27年度はプロテオーム解析の再現性を確認するとともに、無菌状態による寒天培地での根の伸長作用を解析した。ポット栽培によるペクチンオリゴ糖処理根を用いたプロテオーム解析の結果、これまでに同定したタンパク質以外にも、Glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase や Aconytate hydratase など解糖系やクエン酸経路に関与する酵素の発現増大が確認された。これらの結果は液胞肥大に関わる有機酸生合成に重要であると考えられ、前年の結果を支持するものであった。また、ポット栽培の場合には、土壌中の微生物の影響も考えられることから、今回の実験では無菌状態で0.25% のペクチン、ペクチンオリゴ糖、ペクチン酸、オリゴガラクツロン酸を添加した寒天培地で生育させ、根の長さを測定した。その結果、ポット栽培と同様に1.5 倍程度の有意な伸長促進が観察された。これにより、ペクチンオリゴ糖の影響は微生物を介した間接的な影響ではなく、ペクチンオリゴ糖が直接的なシグナルとなっていることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度研究計画は、ペクチンオリゴ糖が誘導するイネ根おける発現タンパク質の解析(再現性の確認)と寒天培地におけるペクチンオリゴ糖の影響を解析するものであったが、いずれも予定通りに遂行され新たな知見の蓄積に至った。特に微生物の影響を排除した条件化でも根の伸長が見られたことは、ペクチンオリゴ糖の作用の理解を容易にする重要な知見である。一部の成果をもとに28年度研究計画である遺伝子発現レベルの解析も既に進行中である。以上のように、当初の計画に従い、おおむね予定通りの実験が遂行できていることから、順調に進展しているものと判断する。
当初の計画通り順調に推移していることから、基本的には今後も計画に従って継続的に研究を行う。28年度研究計画は、これまでのタンパク質レベルでの発現解析に結果に基づき、ターゲット遺伝子の発現レベルを RT-PCR あるいはリアルタイム PCR によって解析を行う予定である。また、捉えきれていない多くの遺伝子発現の変化を確認するため、次世代シーケンサーによる mRNA-Seq の解析も計画している。さらに、ペクチンオリゴ糖処理による根端細胞の組織観察を行う予定である。
当初計画で予定していた消耗品の中で、二次元電気泳動用の試薬について実験が順調に推移したことから、予定より少なく済んだ。また、27年度も遺伝子解析を予定していたが、寒天培地による生育試験を中心に実験が行われたため、高額な消耗品が少なく済んだ。次年度は遺伝子解析を主体とした実験計画であり、使用する試薬の性質などから必要時の購入が望ましいことから、次年度に繰り越すこととした。
計画通り、遺伝子実験用試薬の購入費として使用する予定である。また、その他の生化学一般試薬の購入の他、顕微鏡による組織観察に必要な試薬の購入も予定している。
すべて 2015
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