ヒメボクトウは日本に生息するボクトウガ科のチョウ目昆虫であり、幼虫がリンゴ、ナシ等の果樹やヤナギ等の林木に穿入し、材部を集団で摂食する。材内に穿孔する昆虫には珍しく孵化幼虫から羽化にいたるまで集団で生息する。本研究では、本種の集合に化学物質が関与している可能性を検証すると共に、その化学物質の特定および構造決定に取り組んだ。ヒメボクトウの集合を引き起こす化学物質として、個体同士が互いに誘引しあう(以下、誘引活性)揮発性の化学成分と、誘引された後に幼虫の集団を維持する(以下、集合活性)揮発性の低い化学成分の存在が想定される。そこで、まず幼虫由来の揮発性物質をヘッドスペース法により捕集し、粗試料を作成した。粗試料の生物検定を行ったところ、粗試料は幼虫の誘引活性と集合活性の双方を示した。さらに、粗試料をカラムクロマトグラフィーによって分画し、得られた複数の画分についてそれぞれ生物検定を行った結果、誘引活性、集合活性とも極性を示す画分にあらわれた。分画によって得られた画分それぞれについてガスクロマトグラフィー質量分析を行った結果、トータルイオンクロマトグラムにおいて誘引活性・集合活性が見られた画分のみにいくつかの特徴的なピークが検出された。その中でもっとも大きなピークは、マススペクトルの特徴からアルデヒド化合物である可能性が示唆されたが、最終的な化学構造の決定にはさらなら化学分析が必要である。
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