研究計画に従って、最終年度は二次刺毛のコスト査定を行った。ケムシは脱皮ごとに二次刺毛を発育させる必要があるため、二次刺毛が発達しないイモムシよりもケムシで齢期間がより長くなるという予測を以下のように検証した。25°C、明期16 時間/暗期8時間の条件下でケムシ4種(アカゲヒドクガ、エルモンドクガ、クワゴマダラヒトリ、オビカレハ)およびイモムシ6種(カイコ、クワコ、オオシモフリスズメ、モモスズメ、ハスモンヨトウ、ホシシャク)の生育期間を測定し、各齢の平均発育期間を求めた。予測に反し、ケムシが必ずしも発育期間が長くなっているわけではなく、むしろ大型イモムシ(スズメガ類幼虫)ではケムシよりも発育期間が長い傾向が見られた。これは、二次刺毛の発達以外にも体重増加など他の要因が発育期間に重要な影響を与えている可能性が高い。また、イモムシ各種で脱皮後すぐに脱皮殻を接食してしまうため、ケムシとイモムシの脱皮殻の重量比を比較することができなかった。 研究期間全体(3年間)を通じて主に2つのことを明らかにした。(1)クワゴマダラヒトリの老齢幼虫では、発達した二次刺毛が捕食性昆虫(クロカタビロオサムシ)に対して重要な物理的防衛機能があることを操作実験により示した。(2)マイマイガの1齢幼虫は捕食寄生性昆虫(ギンケハラボソコマユバチ)に産卵・寄生されるが、2齢以降では発達した二次刺毛が産卵を妨げる機能があることを実験的に示した。従来、鱗翅目幼虫の二次刺毛の機能には被食防衛機能があることは経験的に知られてきたが、どのように二次刺毛が防衛に関与しているのかを詳細に検討されてこなかった。本研究では、二次刺毛を物理的に切断することで、二次刺毛が捕食者の大顎や寄生者の産卵管より長いことが重要であることを初めて明らかにした。以上の成果は査読付きの国際誌に論文として掲載されている。
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