研究課題/領域番号 |
26450068
|
研究機関 | 地方独立行政法人青森県産業技術センター |
研究代表者 |
石栗 陽一 地方独立行政法人青森県産業技術センター, その他部局等, 研究員 (80502963)
|
研究分担者 |
吉永 直子 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (40456819)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | リンゴ / モモシンクイガ / 誘導抵抗性 / 発育阻害物質 / 産卵刺激物質 / 果実香気成分 / 植物-昆虫間相互作用 |
研究実績の概要 |
リンゴの着果果実におけるモモシンクイガ幼虫発育を‘ふじ’、‘春明21’、‘千雪’の3品種で比較した結果、‘ふじ’及び‘春明21’では生存率が低く、生存幼虫にも顕著な発育遅延が生じたのに対し、‘千雪’では生存率が高く、発育遅延程度は小さかった。一方、摘果果実では、いずれの品種でも生存率が高く、発育遅延は起こらなかった。発育阻害が起こる品種‘ふじ’を用い、幼虫の食害で果実に誘導される物質を探索した結果、昨年明らかにしたトリテルペン2α,19α-dihydoroxy-3-oxo-12-ursen-28-oic acid(3-oxo-TA)に加え、4つの未知化合物A(m/z 409)、B(m/z 361)、C(m/z 559)、D(m/z 520)を見出した。これらの誘導量を発育阻害程度の異なる3品種で比較したところ、発育阻害が起こりにくい品種‘千雪’で3-oxo-TA、化合物A、B、Cの誘導量が少なかった。発育阻害が起こる品種‘春明21’を用い、食害誘導性化合物の果実内分布を調べた結果、3-oxo-TA及び化合物Aは食害部のごく近傍のみに存在し、局在性が高く、化合物B及びCは食害部の周辺に存在し、局在性はやや低いことが明らかになった。また、化合物Dは果皮に多く存在し、果肉では食害部に局在していた。 雌成虫による果実への産卵は、炭酸カルシウム剤(以下炭カル)を果実に散布すると減少する。炭カル散布果と無散布果の香気成分を比較した結果、炭カル散布果で特異的に見られる2種の化合物が見つかった。これらの化合物は炭カルの散布によって果実に誘導されたものではなく、製剤自体に含まれる成分であることが製剤由来の揮発成分の分析で明らかになったが、現在のところ産卵数の減少に関与しているかどうかは不明である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
幼虫の生存率や発育阻害の程度にリンゴ品種間で差があることを明らかにするとともに、発育阻害物質の候補として見出した食害誘導性化合物の誘導量が発育阻害の起こりにくい品種で少ないことを明らかにしたことにより、実際に発育阻害に関与している可能性を示した。また、食害誘導性化合物の果実内における誘導部位を明らかにしたことにより、誘導機構の解明につながる成果を得た。産卵刺激物質の探索については、産卵数を減少させる効果のある炭酸カルシウム剤を散布した果実に特異的な化合物を検出し、炭酸カルシウム剤による産卵数減少の要因解明につながる成果を得た。
|
今後の研究の推進方策 |
幼虫の食害によって着果果実に特異的に誘導され、発育阻害に関与している可能性がある未知化合物について、HPLCで大量精製し、NMRで化学構造の同定を試みる。また、炭酸カルシウムを散布した果実で特異的に検出された化合物やリンゴ果実由来の香気成分の雌成虫への影響を調べるため、GC-EADを用いて雌触角の電気生理的な反応を見る。
|
次年度使用額が生じた理由 |
果実中に含まれるモモシンクイガ幼虫に対する生育阻害物質について、同定する未知ターゲット化合物が当初の予定より増えたため、単離同定作業が28年度にずれ込んだ。また、同定作業に必要なNMR測定に費用がかかるため、研究費配分を変更し、27年度分の予算を減らすことで28年度分の予算を増額した。
|
次年度使用額の使用計画 |
27年度までに確立した抽出・単離方法を用いて、重被害果から複数の食害痕誘導性化合物をHPLCを用いて大量精製し、NMRにて構造決定を行う。
|