研究実績の概要 |
リンゴの果実内部で発育するモモシンクイガ幼虫は、樹から切り離した果実(摘果)では正常に発育するが、樹上の果実(着果)では多くが死亡することから、着果では幼虫の食入に応答して何らかの発育阻害物質が誘導されると考えられる。これまでに幼虫が食入した着果に誘導される複数の化合物の存在を明らかにしたが、本年度はそのうち二つについてp-クマロイルキナ酸およびクロロゲン酸と同定した。着果での幼虫生存率には品種間差異があり、‘ふじ’や‘春明21’では生存率が低いが‘千雪’では生存率が高いことをこれまでに明らかにした。本年度はさらに‘恵’、‘メロー’、‘東光’、‘彩香’、‘あおり24’(初恋ぐりん)の5品種で検討した結果、いずれの品種でも幼虫生存率は低かった。発育阻害が起こりにくい品種である‘千雪’の特異性が際立つ結果となったが、‘千雪’ではp-クマロイルキナ酸の誘導量が少ないことから、幼虫の発育阻害に関与している可能性が示唆された。 モモシンクイガは果実のみに産卵するが、産卵場所の定位に関わる揮発性化学物質は明らかになっていない。これまでに炭酸カルシウム水和剤(炭カル)を散布した果実で産卵数が著しく減少することを明らかにしたが、本年度は炭カル処理果に特異的に検出される揮発成分の同定と、GC-EAD及びEAGによる触角の電気生理的な応答を調査した。炭カル処理果に特異的に検出される揮発成分は2,2,4-trimethyl-1,3-pentanedial diisobutyrate(TXIB)と同定され、製剤由来の化合物と考えられた。GC-EADを用いた調査では、TXIBに対して雌雄とも触角の応答が認められた。一方、EAGでは炭カルの揮発成分に対して雌成虫触角の応答は認められなかったが、顕著な応答が見られるリンゴ果実の香気成分に炭カルの揮発成分をブレンドすると、応答が弱まることを明らかにした。
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