研究課題
当初の研究計画を大幅に変更したものの、昨年度(初年度)は、より高い活性を示すYUCCA酵素の発現・精製および蛍光検出器を備えたHPLC装置によるIAAの微量検出を可能にしただけでなく、阻害剤のスクリーニング評価系を構築するところまで達成することができた。さらに、保有する低分子有機化合物ライブラリーの一部についてスクリーニングを行った結果、紅藻ソゾ属の海藻が産生するcupalaurenolに高い酵素阻害活性が確認できた。今までに報告されたYUCCA阻害剤は全て合成品であり、天然物としての報告は初めてとなった。有望な阻害活性を示す海洋天然物の存在が示唆されたことから、今年度は、独自に保有する多様な沖縄産海洋生物由来の抽出物ライブラリーからの探索を中心に進めた。まずは約40種類についてスクリーニングを進めた結果、紅藻のミナミソゾやコブソゾならびに緑藻のアオサ、タマバロニア、クロミルに強い阻害活性がみられた。中でも顕著な活性を示した紅藻ミナミソゾに着目して阻害活性物質の探索を行った結果、活性本体は含ハロゲンセスキテルペンのlaurinterolであると同定した。初年度に取得したcupalaurenolも広義的には同じlaurane型の含ハロゲンセスキテルペンであり、既知の阻害剤とは異なる化学構造を有する活性物質の取得に成功した。また、シロイヌナズナやコマツナを用いた植物初期生育阻害試験(in vivo)において、laurinterolは既知のYUCCA阻害剤であるyucasinや4-phenoxyphenylboronic acidよりも強い生育阻害効果を示した。
2: おおむね順調に進展している
低分子有機化合物ライブラリーのみならず、独自に保有する多様な海洋生物由来の抽出物ライブラリーを活用して探索源を広げた結果、既知の阻害剤とは異なる化学構造をもつ有望な阻害活性物質laurinterolの取得に成功した。Laurintrolは様々な生物活性を示すことが知られているが、植物の生育に関与する文献等は見当たらない。その上、今までにYUCCA酵素阻害活性を示す天然物の報告例もなく、本研究より新たな知見が得られた。また、当初の計画通り、実際の植物体を用いた生育阻害試験にも着手し、in vitroだけでなく、in vivoにおいても高い阻害効果を確認することができた。取得したlaurinterolの安定性は比較的高いものであったが、溶解性の検討課題が残っている。
本研究においてシード化合物の取得は要となるため、次年度も残りの化合物および抽出物ライブラリーからの探索・スクリーニングは継続して着手する予定である。選抜されたlaurinterol等の候補物質については、高速液体クロマトグラフィー質量分析装置(LC-MS/MS)等を用いて、微量なIAAおよびインドールピルビン酸(IPyA)の植物内生量を測定し、IAA生合成に対する阻害効果を正確に評価する予定である。また、取得したlaurinterolは天然物としては収量も多く、比較的安定性の高い化合物であるが、低極性・難水溶性であるため、溶解性の問題などを化学変換や官能基変換等によって改良・最適化する必要がある。最終的には、次のステップに展開させるための発展型阻害剤の創製を目指す。
残額が極めて少額であり、次年度に合算して研究に必要な物品購入に充てたいと考えたため。
今年度は以下の消耗品が主要な支出となる予定である。1)活性評価を行う上で欠かすことのできないYUCCA酵素の調製や酵素反応に必要な器具および試薬や溶媒など。2)高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等の分析機器に使用する有機溶媒やカラム・前処理用製品など。3)化学合成に必要な試薬や溶媒など。本年度は高額な設備備品の購入は計画していないが、現有のHPLC装置の一部は古く機能性が悪いため、交換を検討している。また、次年度は最終年度となるため、共同研究者との綿密な打ち合わせや成果発表等に関わる旅費も計上する予定である。
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Plant Cell Reports
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The Plant Journal
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