研究課題
植物は生育に窒素栄養を必要とする。窒素は肥料として植物へ与えられる。窒素肥料として、アンモニウム態の窒素肥料がよく用いられる。したがって、植物がアンモニウムを効率良く吸収したり、代謝したりすることができるようになれば、植物の窒素利用効率を向上させることができる。それによって、少ない肥料で、植物を大きく育てられる可能性がある。植物のアンモニウム利用に関わる遺伝子は、いくつかの種類がある。それらの遺伝子について、変異体を単離して解析を進める。変異体とは、解析したい遺伝子の機能が、変異によって破壊された植物のことである。変異体と通常の植物を比較することで、遺伝子の破壊によって生じる不都合な点を明らかにできる。つまり、遺伝子の機能を明らかにすることができる。本年は、アンモニウムの代謝に関わるタンパク質の中でも、二つのタンパク質に着目して解析を行った。一つ目は、NADH依存型グルタミン酸合成酵素である。この遺伝子は、シロイヌナズナの根へアンモニウムを供給すると、遺伝子発現が高くなる。このことから、この遺伝子がアンモニウムの同化に関与する可能性が示唆されてきた。この遺伝子を欠損する変異体は、アンモニウム態の窒素栄養を利用して健全に生育することができなかったことから、この遺伝子がアンモニウムの代謝に重要であることが直接証明された。二つ目は、細胞質型グルタミン合成酵素である。このタンパク質をコードする遺伝子は、シロイヌナズナのゲノムに5つある。これらのうち、アンモニウムの供給によって誘導的に発現するGS1;2に着目して解析を行った。変異体を用いた解析から、この遺伝子の欠損は、シロイヌナズナのアンモニウム利用を不全とすることが判明した。これらの研究によって、植物の根でアンモニウムを同化する際に必要となる遺伝子が明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
プロテオーム解析によって見出された低親和型アンモニウム輸送担体の候補となる膜タンパク質を探索し、その変異体をいくつか取得した。アンモニウムで誘導されるNADH依存型グルタミン酸合成酵素の変異体を解析し、この酵素がアンモニウムの初期的な同化に関与することを明らかにし、報告を一報出版した。窒素の初期同化に関わる遺伝子の多重変異体の準備が順調に進行している。本研究で使用する代謝酵素の変異体について、人工交配を行うことで多重変異体の作成を行っている。人工交配を行うことで、種子が形成されなくなる恐れがあったが、多重変異体の種子を獲得することが可能であることがわかった。解析に使用する遺伝子組み換え植物の準備が順調に進行している。本研究で必要となる遺伝子組み換え植物の作成に必要となるベクターの作成に成功し、遺伝子組み換え植物の作成を行った。発現量が高い系統を特定する作業を行うことが可能となった。変異体の評価に必要となる栽培の方法と、栽培の条件設定が完了した。本研究では、アンモニウム態窒素栄養の植物における利用を評価する。この評価に必要となる栽培環境の最適化をおこない、明確な表現型を提示できる条件を設定することができた。
アンモニウムの利用に関しては、変異体の栽培方法と、栽培後の生育の評価方法が定まったので、その評価の方法にしたがって、変異体の調査を継続して行う。変異体の表現型が特定できたものについては、原著論文の作成をおこなう。複合体の形成解析に用いる遺伝子組み換え植物が作成できたので、どの系統の植物がもっとも解析に適しているか判定する。そのために、タグ部分の抗体を一次抗体として、プロテインゲルブロット解析などを行って、融合タンパク質の蓄積量が高い系統を特定する。そして、特定した系統について、共沈殿などの解析をおこなう。QTL解析で特定された遺伝子領域がさらに狭まるように人工交配を継続的に行う。窒素栄養の刺激による根の形態的な変化と、窒素利用効率を関連付けることができるように、根の形態的な変化を引き起こす変異体の窒素利用効率を考察する。低親和型のアンモニウム輸送を担う可能性のある膜タンパク質を欠損する変異体をもちいて、重窒素標識アンモニウムを高濃度で与え、低親和型アンモニウム輸送の容量を評価する。アンモニウムの初期的な同化を担う酵素群の表現型解析が十分に行われるように、これらの代謝の下流の代謝経路にも着目し、複合的な環境の変化に対する適応機構を考察する。
研究が順調に進展した結果、研究支援者の雇用が必要なかったために、当該年度に計上した謝金を使用しなかった。解析する試料を限定するなどして、安定同位体比質量分析の使用を最小に抑え、費用がかからないように工夫した。
本年度は、研究支援者を雇用し、研究をさらに継続・発展させる予定である。さらに、安定同位体比質量分析に予算を計上し、研究をさらに発展させる予定である。
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