研究課題/領域番号 |
26450075
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田中 真幸 東京大学, 農学生命科学研究科, 助教 (80546292)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 上流ORF / ホウ素 / 輸送体 / シロイヌナズナ / 転写後制御 / リボソーム |
研究実績の概要 |
ホウ素は植物に必須な無機栄養素であるが、過剰のホウ素は植物にとって毒である。シロイヌナズナの効率的なホウ素吸収にはNIP5;1が必須であり、その発現は転写後制御を受けている。さらにその制御にはリボソームが重要な役割を果たしていること明らかとなってきた。本研究では、リボソーム mRNA複合体による植物のホウ素感知機能の解明を目指した。
1)NIP5;1 5’-UTRに存在するAUGUAA配列に、ホウ素依存的にリボソームが停滞することが明らかとなっており、この制御に関わる分子を単離するため、NIP5;1のホウ素感知変異株の単離を進めた。レポーター遺伝子、GFP下流にNIP5;1を接続し5’-UTRを含んだNIP5;1プロモーター制御下で発現させた形質転換シロイヌナズナは、低ホウ素条件下でGFP蛍光が見られるが、ホウ素十分条件では見られない。この植物に塩基置換を誘発する変異誘起剤で処理を行い、高ホウ酸条件(100μM ホウ酸)の培地で生育し、GFP蛍光が観察されるものを選抜したが候補株を得ることができなかった。そこで、選抜条件を変更し、ホウ酸通常条件(25μM ホウ酸)の培地で生育し、GFP蛍光が観察されるものを選抜した。その結果、3万株のM2種子から一次選抜、二次選抜を経て5株の候補株が得られた。この変異株の原因遺伝子の特定のため、掛け合わせを開始した。
2)NIP5;1の発現制御の一つにNIP5;1 5’-UTRに存在するAUGUAA配列に、ホウ素依存的にリボソームが停滞することが明らかとなってきているが、どのようにリボソームがホウ素依存的にAUGUAA上で停滞するのかのメカニズムは明らかとなっていない。そこで、低温電子顕微鏡を使って、AUGUAA上で停滞しているリボソームの構造を解析することにした。サンプルには、NIP5;1 5’-UTR のAUGUAAを含んだ周辺配列、60塩基という短い配列を用いることにした。現在、この60塩基のPCR産物を精製し、それを用いたin vitro 転写によりRNAの精製を試みている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1)得られた候補遺伝子をマッピングである程度絞り込み、次世代DNAシークエンサーを用いて、候補遺伝子の特定を行う予定であったが、M3世代で候補株を得られなかった。そこで選抜条件の変更をし、新たに候補株の選抜を試みた。その結果、M3種子で5株の候補株が選抜された。26年度の目標であった候補遺伝子の特定には至らなかったが、新たに有望株を取得することができた。この得られた5株の候補遺伝子に関して、遺伝子同定のためのポジショナルクローニングを進めて行く予定であり、原因遺伝子の特定を目指す。
2)NIP5;1mRNAのAUGUAA上で停滞しているリボソームを精製する方法が確立できず、低温電子顕微鏡を用いた立体構造解析まで至らなかった。新たな方法として、mRNAにビオチンを付加し、in vitro 翻訳を行うことにより、リボソーム mRNA複合体を精製し、ストレプトアビジンビーズによって、リボソーム mRNA複合体を回収する方法を考えた。この方法では、より効率的にリボソームmRNA複合体が獲得できると期待され、今年度中には低温電子顕微鏡による解析を開始したい。
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今後の研究の推進方策 |
1) 27年度では得られた候補株のポジショナルクローニングを進め、候補遺伝子をマッピングである程度絞り込んだ後、次世代DNAシークエンサーを用いて、候補遺伝子の特定を行う。遺伝子が特定された後、T-DNA挿入変異株を取得し、T-DNA挿入変異株のNIP5;1 mRNA蓄積・mRNA分解速度を調べる。同時に、T-DNA挿入変異株のホウ素過剰条件での生育の観察を進めていく。
2)NIP5;1のAUGUAAを含んだ周辺配列、60塩基の短いPCR産物を純度高く精製しなければ、in vitro転写によりRNAを抽出することが難しく、その工程の精度をまず上げることが必要であると考える。さらにこの短いPCR産物からin vitro転写により効率的に短い転写産物を獲得し、その3’末端にデスチオビオチンを付加させる。このデスチオビオチン付加RNAを用い、コムギ胚芽抽出液によるin vitro 翻訳によりホウ素十分条件においてAUGUAA配列上にリボソームが停滞しているリボソームRNA複合体を獲得することができると期待される。このリボソームRNA複合体をストレプトアビジンビーズにより回収する。さらにAUGUAA上で停滞しているリボソームRNA複合体のみを回収するため、ショ糖密度勾配遠心法により、モノソーム画分を回収する。このモノソーム画分を使って、低温電子顕微鏡で観察を行う予定である。
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