研究課題/領域番号 |
26450079
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
三宅 親弘 神戸大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (80294289)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 光合成 / 糖アルデヒド / 脂質アルデヒド / 呼吸 / 高CO2 |
研究実績の概要 |
糖アルデヒドであるジカルボニル化合物が生体膜脂質を修飾することにより生成する活性脂質カルボニル化合物(Reactive Carbonyls, RCS)の解毒メカニズムとRCS毒性解明を行った。酵素AORは、RCSである alpha/beta-不飽和カルボニルを還元無毒化する。シロイヌナズナ植物を用いて、この酵素が、葉緑体局在であることを確認した。その後、AORの生理機能を明らかにするために、RNAi植物(delta-AOR)の作出を行った。野生型(WT)と比べてAORのAOR活性は大きく低下した。WTとdelta-AORの生育比較を行ったところ、24時間明期の条件では両者に生育の違いが認められなかった。一方、16時間明期 / 8時間暗期の条件ではWTと比べてdelta-AORの生育は著しく抑制された。このことは、AOR欠損がもたらすRCS解毒能低下が呼吸代謝に影響を与えていることを示唆した。実際に、delta-AORの暗呼吸速度がWTと比べ大きく低下していた。この結果は、葉緑体でRCS解毒に関わる酵素の欠損が呼吸代謝に影響を与えるという、全く予想できない事実であった。さらなる解析で、暗期の終わり、delta-AORの葉緑体にはデンプンの蓄積が認められた。一方、WTでは明記に蓄積したデンプンはほぼすべて消費されていた。この結果もまた、呼吸速度の低下を支持するものであった。さらに、PEPカルボキシラーゼ酵素活性、遺伝子発現量の低下が認められ、RCSによる作用ターゲットが明らかになった。また、カルビン回路酵素活性の低下もdelta-AORで検出された。ルビスコの基質であるRuBP再生律速となる高CO2条件での光合成速度は、WTと比べdelta-AORで大きく低下していた。このことは、高CO2環境下での光合成維持にAORによるRCS解毒が重要であることを示す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
活性カルボニル化合物の生成・解毒メカニズムおよびカルボニル代謝の全容把握を目的に、糖アルデヒドであるジカルボニル化合物が生体膜脂質を修飾することにより生成する活性脂質カルボニル化合物(Reactive Carbonyls, RCS)の解毒メカニズムとRCS毒性解明を行った。活性酸素代謝も含め、活性化合物解毒の生理解析では、解毒酵素の欠損株を作成後、様々なストレス負荷により野生型との表現型の比較解析をしなければ、その生理機能を推察できないという困難が散見される。これに対して、AORは、普段の植物の生活そのものに影響を与える酵素であることが判明し、その重要性が際立っている。一方で、呼吸代謝が光合成に匹敵するほど重要であることも明らかになった。葉緑体に局在する酵素であることを考慮すると、光合成の間に生成したRCSが消去されなければ、デンプン分解に影響を与えるという事実も新奇なものである。これらの結果は、葉緑体での糖代謝と呼吸のリンクを担う位置に、AORが位置することを示す重要な成果である。 さらに、AORの欠損がカルビン回路酵素にダメージを与え、それらの活性を低下させることを見出している。このことは、大気条件下での光合成および生育には影響を与えなかった。つまり、大気条件での光合成がルビスコにより律速されるという事実と符合する。そこで、高CO2下での光合成を解析したところ光合成速度が野生型よりも低下していた。この成果は、将来的に直面する高CO2環境下での生育阻害を予見させる重要な成果である。 上述した重要な成果は、カルボニル代謝の全容把握の目的を概ね達成していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
計画3年目に当たる平成28年度は、これまでと同様に以下の項目の課題遂行に取り組む。 (1)高等植物での糖アルデヒド(メチルグリオキサールMG)解毒機構の解明 MGおよび他の糖アルデヒド無毒化に関わるグリオキサラーゼ(GLOX)の発現を抑制させたRNAi植物(シロイヌナズナ)の解析を進めている。MGは脂質を修飾し、RCS生成をもたらす。光合成が促進する高CO2環境下で、野生型との生育比較を行い、GLOXの生育への影響、また細胞内糖アルデヒド量の比較検証を行う。さらに、高CO2環境に処理後の光合成速度解析など生理機能比較を行う。ターゲットとするGOXは葉緑体局在酵素であり、葉緑体内での活性が野生型の10分の1ほどに低下している。そして、生葉でのMGなどの糖アルデヒド蓄積が認められる。上記、生育および生理機能比較では、蓄積している糖アルデヒドの分子種の同定、またそれら量との相関付け解析で、GLOXの生理機能解明を目指す。 (2)二重変異株delta-AOR /delta-GLOX解析による糖アルデヒド・脂質アルデヒド解毒機構の解明 これまでの研究でAOR抑制シロイヌナズナ(delta-AOR)の呼吸代謝系が脂質由来の活性カルボニルRCSによりダメージを呼吸速度が低下し、生育抑制に至ることを明らかにしている。呼吸速度の低下をマーカーにし、グリオキサラーゼ抑制シロイヌナズナ(delta-GLOX)とdelta-AORとの二重変異株の作成を行う。これにより、シロイヌナズナ生育環境下での糖アルデヒド消去の重要性を把握する。光合成産物である糖が高蓄積する高CO2環境でdelta-GLOXの生育が野生型よりも抑制されることは確認しているが、このことは大気CO2条件で糖アルデヒドが生成していることを否定するものではない。そこで、二重変異株での生理・生化学的検証を通して、GLOXの役割解明を試みる。
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